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宅配便かと思って受け取りに出た凪に、呼び鈴を押した男は、「怪しい者じゃないよ」と怪しいことこの上ない台詞を言って、運転免許証を提示した。
「久しぶり」
そこには「篠山京次郎」と名前があった。
京次郎と言う名前には、聞き覚えがあった。凪の叔父にあたる人だ。凪の父の弟で、確か年は三十になるはずだが、二十代前半にしか見えない。若々しいというわけではなく、世間知らずで頼りなさそうな坊ちゃんに見える。甥に向かって、身分証を提示する叔父というのもおかしな話だが、確かに凪の叔父に違いなさそうだった。
「久しぶり」と言われたが、凪はこの叔父にほとんど会った記憶がない。
「何しに来たの?俺しか今いないんだけど」
凪がむっつりとそう言うと、京次郎はニッコリと笑った。その笑顔が、凪の父親に似ていて、ああ確かにこの人は父さんの弟だなと納得した。
「君に会いに来たんだよ、凪くん」
京次郎はそう言って、全く自然に家の中に入ってきた。
「ちょっと」
凪が慌てて止めようとするのを気にすることもなく、二階に続く階段を上ると、迷うことなく一番奥の部屋に向かっていく。
そこは凪の部屋だった。
凪も今度こそ、本気で止めにかかった。
「何してるんだよ、勝手に入るな」
怒りを込めたその言葉も、京次郎の耳には入っていないようだった。
凪が回り込むより先に、京次郎がドアを開けてしまった。
「おい!」
凪が悲鳴のような声を上げる中、京次郎は凪のPCに近づく。PCの画面には、ちょうど作業中だった、ある企業から委託されていたプログラミングが表示されていた。もちろん守秘義務がある。
京次郎は構わず画面を食い入るように見ると、感嘆の声を上げた。
「すばらしい!」
「おい!」
堪忍袋の緒が切れて、凪は京次郎の胸倉を掴み、PCの前から引き離そうとした。
だが、まだ成長期途中の凪と、頼りなさそうでも身体は成人の京次郎とでは、体格差がありすぎた。
凪に引っ張られた京次郎は、逆に凪の肩に両手を置いて、自分の方に向かせると、抱きしめそうな勢いでこう言った。
「凪くん、俺の事業に参加してくれ」
「は?」
虚を突かれて、一気に感情が冷める。
反対に京次郎は、ますますヒートアップしているようだ。
「レンタルボディ。ロボットのボディをレンタルするんだ。借りた人の意識をロボットに接続する。借りた人はレンタル期間中、そのロボットのボディで自由に動くことができる」
「すごいだろう」と顔全体で言いながら、京次郎は続けた。
「そのシステム管理担当をしてくれない?」
凪は信じられないという顔をした。京次郎の構想に感銘を受けたわけではない。
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