レンタルボディ  理想的な家族5ー凪

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 ロボット工学が進んだ現代、AIといったロボットの学習能力の研究と共に進められたのが、ロボットとの意識の一体化の研究だ。精巧で高機能なロボットの能力を、自分の思うとおりに動かすことができれば、可能性は広がる。更に、思うより先に、意識レベルで感知して動かすことができれば、いわばロボットになって動くことができる。  その研究は国のバックアップもあって飛躍的に進歩し、まさに人の意識をロボットに接続(ジャックイン)できるまでになった。人がロボットの身体(ボディ)を意のままに操れるようになったのだ。  ロボットの本体もどんどん精巧になり、人間と見紛うほどの身体ができるようになった。いわゆる、アンドロイドと呼ばれるようなものだ。姿かたちはもとより、皮膚感までが、人間に近いものになっていく。  それは本物と区別がつかないほどに。  そうなると、弊害も生まれる。まだ実験段階で、一般へ普及していないにも関わらず、人より高性能なアンドロイドを使っての、テロや犯罪が懸念された。また、アンドロイドの身体があまりにも高性能であるがために、被験者の中には、接続後にその解除を拒み、精神を病むものも出てくるようになった。  そこで国は、私的なロボットへの接続を禁止した。国が統制をとる開発事業以外での、ロボット接続の研究開発とアンドロイド開発事業を禁止したのだ。  つまりは、 「それ、違法って知ってる?」  凪が確認すると、京次郎は自信をもって頷いた。 「もちろん」  それから顔を寄せてきた。 「でも、その技術を生かすのが、軍事転用だけなんてあんまりだと思わないか」  確かに国が統制をとる開発事業は、もっぱら軍事である。ロボット技術の軍事転用は今に始まったことではない。  エキシビションで、家にいながら現場で作業できるだの、日本にいながらアンコールワットに行けるだの、と生活の向上を謳っているが、国で研究を独占した時点で、軍事転用が決まったようなものだった。  というか、そうしたいが為に、この技術にいちゃもんを付けたようなところがある。  新しい技術に弊害はつきものだし、その対策を講じることも、技術開発の一環だ。まだ何も始まっていないうちに芽を摘み取るような決定に、凪も違和感を覚えていた。  凪は十五歳で、真っ当なら中学生だが、所属している中学校には全く行っていない。  小学生の頃は学校に通っていたし、それなりに楽しかったが、中学一年生の六月ごろに、くだらないいざこざに巻き込まれて、行く気がなくなった。学校側は登校拒否だと思っているかもしれないが、単に行く価値がないなと思っただけだ。  幸い頭が良い凪は、学校に行かなくても勉強面は問題なかったし、やることならたくさんあった。  凪は小学生の頃から、プログラミングの技術に精通し、今では企業から依頼が寄せられる。それを受けて、作業をこなしていたら、引きこもりと言われる部類になってしまっていた。  だが、別に凪は外に出られないわけではない。 「それで?どこでやってるの?」  ため息混じりに尋ねると、京次郎は子どものように目を輝かせた。 「引き受けてくれるのかい?」  興味がないと言ったら、嘘になる。  禁止されている研究をどこで続け、その「レンタルボディ」とやらの事業はどういった方法でやるのか。顧客はどうやって募るのか。その事業を立ち上げることを、京次郎の実家、つまり凪の祖父母は知っているのか。資金はどこから出るのか。 「……話を聞いてから、考える」  凪がそう答えると、京次郎は「もちろん」と頷いた。 「では、わが社に案内しよう」
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