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意気揚々と先を歩く京次郎を見ながら、まるで秘密基地に友達を連れて行く小学生みたいだな、と思っていると、本当に秘密基地みたいなところに連れて行かれた。
寂れた商店街の半地下のような場所で、入り口も裏口のような小さなドアだ。
ドアから入ると細い廊下を抜け、白い殺風景なドアを開けると、広いフロアが広がっていた。
デスクが二つ置かれ、一つには女性が座っている。凪たちが入って行くと、女性はこちらを見た。
「おかえりなさい。社長」
「ああ、ただいま」
京次郎が自然に答えるが、凪は違和感をもった。
「え、もしかして」
凪が不躾に彼女を指さすと、京次郎は「ああ、分かった?」と、何でもない事のように応じた。
「彼女はAI搭載のアンドロイド。もうだいぶ期間を経ているから、優秀だよ」
発音に違和感があったものの、確かに会話のタイミングも滑らかだった。
それにしても……
「すごいだろう?」と自慢げな京次郎に、凪は寒気を覚えた。
広いオフィスにアンドロイドと二人って……。
「もしかして人間はおじさんだけ?」
凪の恐る恐るの問いに、京次郎はあっさり頷いた。
「今のところはね」
こんな場所に中学生の甥を誘うなんて、どういう神経をしているのだろう。
本格的に逃げ腰になった凪の目が、奥に見える物体で止まった。
若い女性だ。髪が長く、色が白い。アンドロイドだと分かっても、妙に人間臭かった。恐らく、モデルがいるのだろう。
「あれをレンタルするの?」
我知らず眉を寄せながら、凪が訊ねた。他に見当たらない。
率直な感想は、悪趣味だな、と思った。
人の姿かたちとはかけ離れたロボットの方がまだよい気がする。人間が人間のようなものになって、何がしたいのだろう。
「依頼人は、九歳の女の子だよ」
渋い顔の凪の後ろで、京次郎は静かに言った。
凪は驚いて振り向いた。
九歳?
そんなこと、可能なのか?
「今から依頼人に会う。凪くんもおいで」
そう静かに言う京次郎の声は、さっきの浮かれた様子は消え失せ、代わりに有無を言わせぬものに変わっていた。
ギクリとして、凪が京次郎の顔を見ると、その顔はニコニコと笑っていた。だが、凪は何か逆らえないものを感じて、京次郎と一緒に依頼人に会うことにした。
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