レンタルボディ  理想的な家族5ー凪

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「そちらのお兄さんは初めてですね」  妙に大人びたその少女は、白い病室のベッドで体を起こして、凪たちを迎え入れた。  ベッドの傍らには、母親らしき人が立っていたが、その顔は穏やかに微笑んでいた。  ……「驚かせたらいけないから、先に言っておくけどね」と京次郎は病院まで道中、ハンドルを握ったまま、凪に伝えたことがあった。「依頼人の笹倉葵ちゃんは、重い心臓病でね。二十歳まで生きるのは難しいと言われている」  目の前にいる子は、そんなに重い病気には見えなかった。顔色も良かったし、声もしゃべり方もしっかりしていた。自分より年上ではないかと思うほど、落ち着いていた。  だけど、九歳にしては子どもの雰囲気が欠けているところとか、手首の骨が出っ張って見えるところに、ただならないものを感じて、凪は落ち着かなかった。  凪のことを目顔で問う葵に、京次郎は笑顔で「僕の助手です。システム面で手伝ってくれることになっているんです」と紹介した。  そんなこと一言も言っていないと、ぎょっとして凪は抗議したかったが、病室でしかも依頼人の前で、ケンカをするわけにもいかない。これが狙いだったのか、と疑いたくもなる。 「今回はわたしの無理なお願いを聞いてくださって、ありがとうございます」  見れば母親も頭を下げている。凪が慌てて「いえ、そんな」と恐縮する。何が何だか分からない。  親子がまだ頭を下げているので、凪は「大丈夫です。任せて下さい」と返してしまった。  葵は笑った。その笑顔に子供らしさが少し(にじ)み出ていて、凪は安心した。
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