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「接続完了。意識、感覚移行に移る」
凪はコマンドを打ち込みながら、ベッドに横たわる葵をガラス越しに覗いた。母親が傍らに座り、父親は少し離れた椅子に座っている。葵に触れてはいない。感覚が混濁して、エラーが起こる可能性があるので、娘には触れないでくれと言ってある。
二人は途方に暮れたような顔で葵を見守っている。少しでも娘を支えたいだろうに、何もできないのはつらいだろう。
葵が眠りにつく前の「いってきます」と言う言葉を、普段通りの笑顔で受けたのを見ただけに、親っていうのはすごいなと凪は感心した。
凪の隣に座らされていたアンドロイドの目が、ゆっくり明いた。
二、三度瞬きをし、周りをゆっくりと見回す。それから自分の身体を見下ろし、その視線は彼女の手の先まで行きついた。
「気分はどうだい、葵ちゃん」
一歩引いて見守っていた京次郎が、葵に声をかけた。
葵は京次郎を振り返り、ゆっくり「大丈夫です」と言った。声も明瞭だ。本体の声より少し落ち着いて低く聞こえる。
「じゃあ、立ってみようか」
京次郎が促すと、葵は恐る恐る立ち上がった。
「すごい!」
アンドロイド葵の目が歓びに輝いた。小さくジャンプしている。
療養生活で歩く機会は少なかっただろう。ましてジャンプなどはできなかったのかもしれない。
「では、いってらっしゃい」
京次郎は笑顔で言うと、凪をチラリと見た。
「デート、楽しんでね」
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