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清太は、ただいまも言わず家に帰ると、
父母と自分とで居間にあるガチャガチャを回す。
『レバーを回す』
すると、『凶 外出は控えなさい』とある。
すると、母親が、幼稚園に電話して、
『すみません、来週の遠足は休みます』
と言って、切る。
残念そうに清太が、
『遠足行きたかったのに』というので、
母親が、『仕方ないでしょ運勢が悪いんだから』
と、言い返す。
このガチャガチャは、良い運勢に導いてくれる不思議なガチャガチャで、
趣味の通販で母親の里美が買ったのだ。
その導きどおりにすれば、災難に遭わずに済むのである。
このガチャガチャの導きは、絶対なのである。
雨が降るといえば、雨が降り、
怪我をするといえば、怪我をする。
事前に起きる出来事を細かくはないが、
ヒントを出して教えてくれるのだ。
こんなに便利なものはない。
いつの間にか、ガチャガチャに頼るような
人生になっていた。
確かにガチャガチャの通りにすれば災厄には見舞われないだろうが、それは同時に人生の醍醐味が失われていることにもなる。
何が起きるのかを、知ってしまっているから刺激のない人生になってしまっているのだ。
ある日、ガチャガチャが引いても空っぽのカプセルしか出てこなくなってしまい、家族はあせるのだ。
『これからどうやって生きればいいのか』
不安で仕方なくなった家族は、
『これからどうやって暮らしていけばいいの』
と絶望したような顔をする。
泣き出す母。
『とりあえずガチャガチャが出るのを待とう』
と震える手でタバコを吸う父親。
清太が、
『ガチャガチャなんかに頼らずに自分たちのことは自分たちで決めようよ』
と親にはじめて意見を言う。
すると、『そうだな』と家族は、
手を取り合い、
もう一度家族の絆を確かめあった。
だが、その晩家族は、
大地震で家ごとつぶされてしまう。
そのとき、家族は気づくのだ。
『ガチャガチャのカプセルの中が空っぽだったのは私たち家族には、明日がないから占えない』ということだったのだ、と。
『運命には抗えないのか』と家族は、瓦礫に埋もれ、手をつなぎながら、息絶える。
その町の人々は、みんな逃げ遅れ、瓦礫に埋もれて死んでしまう。
上空から、ヘリが飛んできて、リポーターが、
テレビカメラに向かって、
『町ひとつが倒壊しました。地殻変動によって大地震が起きたことによる惨状です。
なぜか、この町の人々は、避難発令が出てたにも関わらず逃げる人は一人もおらず、
ガチャガチャが、出ないとわけのわからないことを言っていたとの情報が入りました。
そしてどの家庭もラジオやテレビ、電話といった一切の情報器機を捨てていたことが、わかっており、
それが原因で情報が伝わらず今回の悲劇を生んだのだと思われます。
続報が入りしだい上空から中継いたします…。
以上、現場からでした』
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