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(第一章)
「カット!!」
監督の声が響き、
カメラ越しに湊が振り返るのが見える。
「どうでした?」
急いでカメラの位置まで戻り、
今しがた撮ったばかりの自分の演技を
モニターで確認しながら、
監督に聞いた。
「良かったよ、檜山くん。
いい演技だった。」
監督の満足そうな表情を見て、
湊は爽やかな笑顔を見せた。
たいていの女性はこの笑顔にやられる。
映画『君といた夏』。
海難事故で恋人を亡くした牧村朝人が、
周りの人々に助けられながら人生を再生してゆく内容だ。
この映画の主役に抜擢されたのが若手俳優、檜山湊(25歳)。
恋愛ドラマで驚異的な視聴率を叩き出した、
若手の中でも一番勢いのあるこの俳優が恋愛映画の主役に選ばれたのは当然と言えば当然だろう。
ドラマ経験は多いが映画は初めてという彼は、映画の主役を演じるという事で気合を入れてこの撮影に望んでいた。
今、最後のカットを撮り終えたところだった。
「これで牧村朝人役の檜山湊さんの出演シーン、全編終了です!」
助監督の掛け声と共に、
スタッフから拍手が沸き起こり、
カメラ横にいた恋人役の山本朋美が
花束を持って泣きながら湊に抱きついた。
スタッフの拍手が止むと、湊が挨拶をした。
「ありがとうございます。
まず、無事クランアップを迎えられた事に感謝致します。
若輩者の私が言うのも何ですが、この様な作品、スタッフ、出演者の皆さまと出逢えた事に本当に感謝致します。
本当にありがとうございました!!」
「お疲れ!湊ちゃん!」
花束を抱え深々とお辞儀をする湊に、
スタッフから大きな拍手が送られた。
こうして、
映画「君といた夏」の撮影は無事幕を閉じた。
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