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角を曲がると、姉妹が住むアルファ・ビルヂングが姿を現わした。
その出入り口から、管理人が白いトイプードルを連れて出てくるのが見えた。
「ヒロさんだわ」
「ええ」
管理人と犬は、姉妹に気が付かなかったようだ。二人がいる方向と反対のほうに歩いて行く。
その後ろ姿を見ながら、十和子と美加子はささやき合った。
「あの人も今、恋をしていると思う」
「うん。私もそう思う」
「コウモリと河童を捕まえたら、分けてあげたいね」
「いい考えだね。きっと喜ばれるよ」
夕方らしい町のざわめきが、そこかしこから聞こえてくる。
汝の日常と隣人を愛せよ。桜の木の辺りから、そんな声が聞こえたような気がする。
姉妹は、幸せな気持ちでアルファ・ビルヂングに入っていった。
(完)
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