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 それでもようやく靴を履いて廊下に出ると、両手でウエディングドレスのすそを持ち上げて、正面階段を駆け下りる淑子さんの後ろ姿があった。  その光景は、妙にドラマチックだった。  よく見ると、顔にはシワもシミもあり、髪には染めても隠し切れない白髪が見え隠れし、体中の肉がたるんでいる花嫁だが、布をたっぷり使った豪華なウエディングドレスをひるがえして懸命に階段を走って下りて行く姿は、凛として(さま)になっていた。  この華美なデザインの正面階段は、2階の吹き抜けから、1階の広い玄関ホールに通じている。  よって、淑子さんの姿は、式場のいろんなところにいる人が見ることになった。  パートナーの孝明さんも、淑子さんの姿を見てしまった。  花婿の衣装合わせは別室で行われていて、小竹に呼ばれて花嫁用の衣裳部屋に来ようとしていた孝明さんは、驚きのあまり茫然と立ち尽くしている。
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