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一
「凄い雨ですねぇ」
図書館ツアーの資料を整え終え、一息ついたところで、司書の林さんが言った。
「雨、降っていたんですね?」
椅子から立ち上がり、真横の窓に顔を近づけた。
外は、モヤがかかった灰色の風景が一面に広がっており、消火ホースから放水されたかのような豪雨が降り注いでいた。
その光景に聴覚が刺激されたのか、ゴーッという雨音が、耳へと届けられる。
仕事に集中していて気がつかなかったが、駐車場にできた薄い水たまりが、それなりの時間、降り続いていたことを教えてくれる。
ようやく梅雨入りか……そんなことを考えていたら、肩越しから林さんが窓を開け放った。どんよりとした空気が室内へ流れ込む。
……そういえば、ちょうどこの時期だっけ。仕事が楽しく感じ始めた頃って。
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六年前の春。楽島村役場に新卒で採用され配属されたのが、この楽島図書館だった。
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