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 教卓の上に生首が置かれている。  闇に呑まれて顔はろくに見えない。ただ、ほんの僅かに差し込んだ月明かりが、固く閉ざされた口元だけを照らしつけている。  明かりが一つも点いていない教室は、窓の向こう側に広がる夜の色がそのまま滲み出てきたようで、境目が曖昧になっている。  気を抜けば、気付いたときには闇夜に放り投げられていそうだ。そんなことを思いながら、アゲハは目の前の生首を眺めている。 「さがして」  己の呼吸音しか聞こえない静かな空間を、唐突に冷ややかな声が切り裂く。  はて、自分はこんな声をしていただろうか。そう思って唇に触れたアゲハは、再び響いた声に、ようやくそれを発したのが自分ではなく目の前の生首だと気付いた。  呆けているアゲハの目の前で、閉ざされていたはずの口がゆっくりと弧を描く。  薄く笑みを浮かべた唇は、しかし少しもあたたかみのない声音で、こう囁くのだ。
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