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1-2 永い夜
結局姫川の話がきっかけで立花に火がついてしまい、延々とオカルト話を聞かされ、ようやく解放されたときにはとっぷりと日が暮れ切ってしまっていた。
オカルト研究部の部長を務めているだけあって、姫川も怪談を好む性分のようだった。これがまたかなりの聞き上手で、絶妙な相槌を打つものだから、立花はさらに大興奮して話に夢中になってしまったのだ。オカルトマニアな少女二人に挟まれて、アゲハが辟易としたのは言うまでもないだろう。
「じゃあ夜永先輩、また明日! もう暗いので気を付けてくださいねー!」
呑気に手を振る立花に、こんなに暗くなったのは誰のせいだよと内心毒づきながら手を振り返してやる。確かに、明るい駅前へと向かう姫川と立花に対してアゲハは暗い小道を帰るのだから間違ってはいないのだが、普通はこちらがかけるべき言葉だろうと思いながらきびすを返した。
校舎の前には川が流れていて、それが鬱蒼とした木々に囲まれているものだから、夜になると少し尻ごみしてしまうほど暗くなる。生い茂った木葉が邪魔をして、街灯の明かりがろくに届かないのだ。
駅の方角へ向かうならまだしも、反対の方角は、田んぼと申し訳程度の住宅しかないせいでほぼ明かりがない状態だった。だからなるべく陽が落ちきる前に帰りたかったのにと、アゲハは苛立ちながら帰路につく。
この辺りはペットを飼っている家が多いのか、こんな時間でも犬の散歩をしている者が多い。ライトを点けてくれていなければ、子犬だと誤ってふんずけてしまいそうになるくらい視界が悪い。なのでいつも細心の注意を払いながら進んでいるのだが、どうやら今日は、散歩をしている者は一人も居ないようだった。
珍しいこともあるものだと思いながら川沿いを歩き続けていたアゲハは、盛り上がっていた木の根に足をとられて転びそうになる。いつもだったら気付けるのにと舌打ちをし、空を仰いだアゲハは、原因に気付いて顔をしかめた。数少ない街灯が、全て消えてしまっていたのだ。
「うわ……ついてないな」
ここ最近点滅を繰り返していたから、ついに限界が来てしまったのかもしれない。しかし一度に全部消えてしまうとは思わなかった。
とんだ災難だと思いながら、アゲハはスクールバックから小さな懐中電灯を取り出す。鞄に潜ませられるほどコンパクトなそれは、あまりに帰り道が暗いので念のため購入したものだ。まさかこんな早く使うことになるとはと思いながらスイッチを入れたアゲハは、少しも明るくならない視界に気付いて絶句する。
「嘘だろ……」
何度スイッチを入れ直しても、懐中電灯は全く反応しなかった。先週買ったばかりなのにもう壊れたというのか。やはり100円ショップなんかで買わなければよかったとアゲハは深く後悔する。
だが、悲運はこれだけではなかった。唯一の頼みの綱であった月明かりまでもが、雲に隠れて失われてしまったのだ。
これにはさすがのアゲハも頭を抱えた。明かりが一つもない今の状況で、一体どうやって家に帰れというのだ。ただでさえ足元が悪いというのに。
とはいえ、いつまでもここで立ち止まっているわけにもいかない。アゲハはげんなりしながら溜息をつくと、仕方なく闇に包まれた道を歩き始めるのだった。
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