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次の日、俺の予想は見事に的中した。
兄夫婦を交えての食事会に、俺は予定通り赤いパーカーを着て向かった。
勿論、他の親族はそれなりに整った格好をしており、完全に場違いな人物に成り下がってしまった。
個室に通してくれたチャイナレディに、引きつった会釈を頂き席に着くと、いきなり俺へのダメ出しが始まった。
母からは叱られ、兄からは鼻で笑われ
兄嫁からは蛾の幼虫を見るような目で見られ
開始2分で地獄のような空気感と化した。
極め付けは食事が始まってからであった。
立派な円卓に、次々と運ばれてくるコース料理の数々。
名前も味も頭に入ってこないどころか、作法もままならない高級料理を対処し切れるわけもなく
あろうことか、メインである麻婆豆腐を取り皿ごと溢してしまった。
出産を控えた子供話に夢中な身内に、何とか気づかれまいと片付けようとした
その時だった。
急いで確認した衣服に
飛び散ったタレも豆腐も挽肉も
染みから脂から、何一つ跡が残っていなかったのだ。
極め付けは、豆腐のような固形物から豆板醤などの液体まで
溢れたものが全て、パーカーの中に吸い込まれて消えていった。
咄嗟にパーカーを捲ってみたものの
その下の白シャツは、何食わぬ顔でそこにいた。
…そう。
これが文字通りの
中華料理パーカーだったのだ。
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