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 (おと)の誕生日も、朝から雨が降っていた。 (やっぱりこの家には、私を祝ってくれるひとはいないのね)  わかっていたはずなのに、期待していた自分に気がつき苦笑した。  (おと)有雨子(ゆうこ)の誕生日は、(おと)のほうが少しだけ早い。けれど対外的に双子だとしているため、ふたりの誕生祝いは常に有雨子(ゆうこ)に合わせて行われている。 『姉であるあなたが、妹に合わせてあげるべきでしょう』  当然のように母はそういうけれど、本当の誕生日をお祝いされない寂しさをどう伝えたらよいのか。  けれど、今年は違う。(おと)の誕生日を、薫重(くんじゅ)は知っている。だから、彼だけは祝ってくれるはず。 (早く時間にならないかしら……。でも、女学校がない日だから、あんまり早く神社へのお務めに向かって、怪しまれても困るわ……)  何度も時計を見ていたから、勘づかれてしまったのかもしれない。  自分の部屋の中でこっそり指輪をつけていたところを、母に踏み込まれた。その後ろには、面白そうな顔で覗き込む妹の姿がある。 「それは何かしら」 「たいしたものではありません」 「やましいことがないのなら、お見せなさい」 (どうして放っておいてくれないのかしら。嫌いなら、いっそ私のことなんて無視してくれればよいのに) 「そうよ、お見せになって」  無邪気な合いの手が入る。有雨子(ゆうこ)と母はとても気が合うのだ。(おと)などよりもずっと。まるで血が繋がった親子であるかのように。 「これは一体どういうことなの?」  じろりと睨まれ、慌てて左手を隠そうとすれば、腕をひねりあげられた。 「神社へお務めに行くふりをして、カフェーで女給でもしていたの?」 「まあ、お姉さまったら大胆!」 「まったく、立花家の人間ともあろうものがみっとない。そんな指輪、さっさと外してしまいなさい」  左手の薬指におさまった指輪は、母たちがどれだけ引っ張ってもびくともしない。指がちぎれそうなほどの勢いにたまらず悲鳴をあげた。 「お母さま、やめてっ」 「わたくしの娘は、有雨子(ゆうこ)ひとりだけよ」  掴まれた腕や指先よりも、その言葉が痛い。涙で前が見えなくなった。
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