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ハッと顔を上げて窓の外を見る。
「っ……、きれい……」
何の意図もなく、そう呟いていた。
色とりどりの花火が、空を彩っている。大きいものも小さいものも、どれもとても魅力的で目を奪われる。
そして花火があがったと同時に、どこかジリジリしていた空気がふっと緩んだ気がしていた。
ホッとして、手に握りしめていた缶チューハイに口をつける。
桃の味がする。少しだけ、心も緩んだ。もしかしたら、顔も緩んだかもしれない。
その瞬間。
「矢島さん」
「はい?」
呼ばれて、左隣の里野くんの方を見る。
少しだけ視線を落とした彼が、なぜかゆっくり近づいてきて。ああ、本当に綺麗な顔だなあ、と思っているうちに。
その形の良い唇が、私の唇に、触れた。
柔らかさを残したまま、そのぬくもりは離れていく。
目を閉じることもできず、一部始終を見てしまった。何が起こったかわからないままの私の前で、里野くんはじっとこちらを見つめていた。
「な、え、あ、なに……っ」
意味をなさない言葉が反射的にこぼれ落ちて。
それを聞いた里野くんは、首を傾げて。
「じゃあ、もう一回」
「え、」
そんなことを言って、また顔を寄せてきて、私の唇をふさいだ。
今度もまた、目を閉じる暇はなかった。
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