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ドォン…… ドン ドン……
遠くで、花火の音がする。さっきよりも遠くに感じるのは、自分の鼓動の音がうるさいせいかもしれない。
里野くんは、フリーズした私を見てどう思ったのか。
『もう一回』のあとで、少し離れたかと思ったらまたゆっくり近づいては口づけしてきた。
永遠みたいな一瞬が繰り返されるうちに、もう何が何だかわからなくなってきた。
これは夢か。それとも死後の世界か。私は死んだのか。
いつになく真剣で、言いようのない色気をまとった里野くんは、何度も、私の唇に触れている。角度を変えて繰り返して、最後に下唇を軽く食んでいった。
呆然と、されるがままになっていた私も、ようやく呼吸ができるようになって。
今、されたことが何なのか、理解して、でも理解できなくて。
少しだけ満足したように微笑む里野くんが、どうしてそんな顔をしているのか不思議で、思わず呟いていた。
「な、んで……?」
なんで? なんで急にこんなことしたの? 何でそんな顔してるの?
いろんな疑問がごちゃごちゃになって、触れていた唇が熱を持ったみたいに存在を主張していて、身体中が熱くて、どうしようもなくて。
そんな私とは正反対な里野くんはというと、きょとん、としたようにまた首を傾げていた。
「キス、初めてだった?」
「え、あ、……うん」
「そう、よかった」
「よかっ……、じゃなくて!」
にっこり笑った里野くんにごまかされそうになるのを堪え、私は声をあげた。
「なんで、その……キス、なんて」
キス、っていう単語が恥ずかしくて、小声にはなってしまったけれど。
なんとか抗議できたはずなのに。
「好きだからだけど」
「……え?」
一瞬で、また混乱に叩き落とされるとは思ってもみなかった。
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