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「なあ、兄ちゃん、今度の週末は、おとうちゃんと一緒にお母ちゃんも一緒に家出するんやて?」弟の裕太がポテトチップスを囓りながら言った。
「うん、そうらしいな」兄の雅史はポテトチップスのカケラが飛び散るのを見て顔をしかめながら答えた。
「お母ちゃんも一緒って、めずらしいな。どないしたんやろ」裕太は兄の様子などお構いなくポテトチップスを盛大に頬張っている。
「ほんでも今回は行き先も帰ってくる日も決まっとるから、家出とはちゃうんやないか?おい、お前こぼすなよ!」
「あー、こぼれてたか?」ズボンをパンパンと払って「どういう心境の変化やろなー」
「カケラが余計に散らかるやろが!」裕太の頭をはたいて雅史が続けた。
「お父ちゃんの友だちに、安井ってカメラマンのおっちゃんがおったやろ?あのおっちゃんがな、写真のモデルになって欲しいて頼んできたらしいで」
「モデルて、ウチのお父ちゃんとお母ちゃんに?老人ホームの広告か?」
「いや、ちゃうちゃう。俺も聞いたときにはそう思たけどな」
雅史はフキンを持ってきて机を拭きながら話しを続けた。
「アノ二人て、結婚式もしとらんし、記念の写真とかもないやろ?そういう夫婦が何年もしてから記念写真だけでも撮ろうかって、そない思う奴が案外ぎょうさんおるらしいんや。そういうのに目をつけた写真館から「フルムーン撮影」の宣伝になるポスター作ってくれって安井はんが頼まれたらしいで」
「はー、なるほどなー」
「写真撮るて、ふつうやったら貸し衣装や着付けやメイク?なんやらかんやらで金かかるわけやけど、モデルになったら全部タダや」
「ほんで、出演料ももらえるのんか」
「さあなあ。安井のおっちゃんの仕事やから、そんなにぎょうさんはもらえんやろな」
「そんでもちょっとぐらいは貰えるやろ」
「たぶんな。そやからキャンプもくっつけることにしたんとちゃうか」
「そらお母ちゃんも飛びつきそうやな~。けど、あの顔でええんやろか?」
「なんやヴェールで隠すから、顔はあんまり写らんらしいで」
「そらよかった」
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