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どうやら、その人物は、先程の母親らしき人ではなかったようだ。
幼い銀太が、下の方から見上げていたので、コーヒーメーカーの所にいた、その母親は思わずニッコリと笑ってくれる。
「可愛い子。こんにちは。」
人違いをしてしまった銀太は、気まずくなりながら、
「こ、こんにちは。」
と返事を返した。
ふと、その母親の横で、同じく銀太の方を見ていた娘らしき女の子が声をかけてくる。
「あなた、誰?」
「俺か。俺は、銀太。」
銀太よりも少し背が高く、華奢《きゃしゃ》な体型の女の子は、茶色いショートの髪で右頭の位置で一つ結びし、大きく綺麗な瞳で見つめた。
「銀太くん、か〜。私は、山口 美咲よ。よろしくね。」
山口 美咲。10歳。
初対面にも関わらず、人懐っこい美咲を前に、銀太は戸惑っている。
「お、おう。」
美咲はすぐに、傍にいた千恵にも話しかけた。
「あなたの名前は?」
「私は、千恵。」
一回り程も年上の知らない女の子に対して、千恵もやや緊張気味に答える。
「へえ〜。千恵ちゃん。私、美咲。よろしくね〜。」
千恵は、ただコクリと頷くしか出来なかった。
そこへ、間を割って入るかのように、レジを済ませた占い師が現れて、千恵と銀太に言う。
「さ、買ったから、二人とも帰るよ。」
途端に占い師は、コンビニのドアを開けて出ていった。
二人も慌てて遅れないように、その後へと続く。
「千恵ちゃん、銀太くん。じゃあね〜。」
立ち去っていく二人へ、美咲は愛想良く手を振った。
千恵と銀太の姿は、駆け出して消える。
コンビニから出て歩きながら、占い師はもう早速、ジュースを片手にコロッケパンをかじっていた。
「腹が減っては、戦《いくさ》は出来ぬ。昔の人は、良く言ったもんだよ。」
「イクサ⁇」
その後ろを歩きながら、千恵が首を傾げる。
三人は、人が行き交う町通りの歩道を歩いていき、やがて商店街へと入った。
少しして、占い師の店まで戻ってくると、
「じゃあ、また。」
とだけ、素っ気なく告げて、占い師は店の中へと入っていく。
店前の商店街通路に二人だけ、ポツリと立ち尽くす千恵と銀太であったが、やむなく父・修治のいる公園へと向かった。
数名の子供たちが、はしゃぎ回る公園で、その一つのベンチで修治が気持ち良さそうに眠りについている。
その体を、ふと小さな手が揺り起こした。
すぐに目を覚まさない修治は、更に体を揺らされる。
「お父さん!」
修治はやっと片目を開けて、顔だけ起こし、その起こした人物を確認しようとした。
それは紛れもなく、自分の娘・千恵である。
「う・・、なんだ。千恵か。」
その千恵の横には、銀太が立っていた。
「お父さん。いつまで寝てるの。もう帰ろうよ。」
そう言われても、修治はまだ半分、眠りの中にいる。
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