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まだよく開かない目を擦って、辺りを見回し、現状を把握しようとしていた。
「ん? 今、何時だ?」
そんな時間など分からない千恵と銀太は、それには答えず、別の事を訴える。
「お昼ご飯。お腹空いたよ。」
「お昼ご飯⁇ もう、そんな時間か?」
その時、黒っぽいスーツを着込んだ男性が、近づいてきて声をかけてきた。
「あのう。ちょっと、すいません。」
まだベンチに寝転がったままの修治は、そう言われてやっと体を起こし、とりあえず腰掛ける。
「ん? は? 何ですか?」
その見知らぬ男性に、返答する修治。
見た感じ30歳代ぐらいの男性で、髪や身なりをきちんと整えた雰囲気で、落ち着いた感じで凛としていた。
突然、見知らぬ人が話しかけてきた事に警戒している様子の修治たちを察して、その男性はスーツの内側ポケットから何やら手帳みたいな物を取り出す。
「私。岩倉と言います。」
サラリと名前を言って、修治たちに見せたのは警察手帳であった。
岩倉 哲也。33歳。
「あ、刑事・・か。何か、用件ですか?」
ベンチに座ったまま修治は、急に緊張した雰囲気に変わり聞き返す。
「いいえ。お昼寝されていたところみたいでしたが。突然声をかけて、すみません。」
その緊張したやりとりを、黙って見ている千恵と銀太。
そのまま話を続ける岩倉刑事。
「小さな、子供さんも一緒でしたので・・・。」
修治はチラリと、千恵と銀太を見た後、返事を返した。
「はあ。まあ、それが何かあったんですか?」
岩倉刑事は、あくまでも丁寧な態度を保ちながら、話を続けた。
「この辺で、怪しい人物を見かけなかったですか?」
「怪しい人物? ・・ん。もしかして、怪しいのは、私の事ですか?」
修治は、一瞬考える仕草をして、すぐに聞き返した。
「あ、いや、そういうつもりではありませんよ。」
否定する岩倉刑事。
「と、いうと?」
ベンチに座った状態で、修治が更に問い詰めた。
「はい。実は、別の町なんですが。通り魔の事件がありまして。不審者の目撃情報などを聞いたり、地域を見回りしたりしているんですよ。」
そこまで聞いて、少し肩の荷を下ろしたように、修治が納得をする。
「あ、なるほど。そういう事だったんですか。まあ、しかし通り魔なんて怖いですね。」
あくまでも冷静に答える修治。
「小さなお子様もいる事ですし。気をつけてください。情報の協力ありがとうございます。時間をとらせて、すいません。」
そう言って、岩倉刑事は三人の元を立ち去っていった。
しばらく、黙ったままの三人。
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