Side story

83/104
前へ
/104ページ
次へ
修治は軟膏のチューブを手に取り、それを千恵の体の赤い発疹部分へと塗布していった。 その最中も、千恵は体のあちこちにあるアトピーの発疹を手で掻いている。 「痒いだろ。」 修治がポツリと聞いた。 千恵はただ、コクンと頷いただけである。 人は痛みに対しては、ある程度我慢出来るが、痒みに関しては耐えられない、という一般的見解を聞いた事があるが。 修治は、研究所に勤める専門職として、その分野の知識があり、一般の人以上にその事を理解しているのだが、その苦しみが自分の愛娘・千恵に起こっている事に胸を痛めていたのだ。 代われるものなら代わってやりたい。 親なら誰しも思うはずである。 滅多に塗ってあげる事が出来ない軟膏塗りをしながら、修治は小さく呟くように言った。 「心配するな。父さんが必ず、この病気を治す方法を見つけてやるから。」 「本当?」 千恵が、修治を見て聞く。 「本当だよ。父さんは、研究員だから。」 その言葉に、嬉しそうに微笑む千恵。 父と娘しか知らない約束。 小さな居間で、何気なく交わした、永遠の約束なのだ。 それから、一週間後の日曜日。 同じように天候に恵まれ、爽やかな朝日の中、今日も叶恵は店先で元気にタコ焼きを売っていた。 「はい〜。いらっしゃ〜い」 このタコ焼きの商売を、何年も一人でやってきた叶恵は、どれ程忙しくても自分だけでやってきた。 その事実と経験は、誰にも否定出来ない。 汗を流しながら鉄板の上でタコ焼きを焼いていく。 仕事内容は、それだけではない。 普段から材料不足にならないように、予め買い物をしておき、調理しやすいように刻んでおくのだ。 買いに来るお客によっては、タコ焼き一つとは限らない。 一気に何パックも注文を受ける事もあるし、なるべく待たせないように、テキパキと焼き上げる。 もちろん数パックぐらいは、おおよそ予測して作っておき、保温ウォーマーの中に入れてはいるのだが、それでも足らずに、悪戦苦闘する事もあった。 今日のこの日曜日という穏やかに見える日も、朝の開店から、どんどんとタコ焼きを買いに来る客が、後を絶たない。 その忙しさは、有難い感謝でもあるのだ。 叶恵はこれまでに、アルバイト程度でレストランにて勤めた事はあったが、自分の店をだし、何かを販売する事など、初めての挑戦である。 それを、美味しいタコ焼き屋がある、という口コミが少しずつ広がって、今日までに多くのお客が買いに来てくれるようになったのだ。 極力、お客を待たせないように、テキパキと手際良く対応し、タコ焼きを次々と調理していく。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加