Side story

87/104
前へ
/104ページ
次へ
すると、その後、商店街を一人歩き店の前を通り過ぎて行こうとする20歳代の女性と目が合った。 占い師は、まるで魚釣りでもするかのように、静かに焦らず、じっと獲物を待つ目で静止している。 どうやら迷っていたその20歳代の女性であったが、勇気を出してテーブルの方へと歩み寄ってきた。 「あの、占いを・・。」 そこで占い師は、ニッコリと笑顔を浮かべながら口を開く。 「あ〜、占いだろ。もちろん、良く当たるって評判だし、すぐ占ってあげるよ。」 そう言われて、その女性も話を返した。 「私・・。実は、いつ結婚出来るのかって心配で・・。本当はもうすぐでも子供が欲しいんです。」 細身で色白のその女性は、自分の思いを語る。 「あ〜、大丈夫だよ。すぐに分かるよ。えっ〜と、名前は・・。」 と占い師が言ったところで、すぐにその女性が答えた。 「水間 里見です。」 水間 里見。21歳。 先に言われて、少し焦った様子の占い師だったが、気持ちを切り替えて話を続ける。 「あ、知ってるよ。名前ぐらい。分かるんだよ。今、その名前を言おうと思ってたんだよ。当たり前だろ。とりあえず前金で、5000円だよ。」 すると、水間という女性は、小さなバッグから財布を取り出した。 その時、店の奥から、待ちくたびれた千恵と銀太が表へと出てくる。 気が付いた占い師が、二人を注意した。 「あ、こら! 私はまだ仕事中なんだよ。おとなしく奥で待っていろ、って。」 「まだかよ〜、早く行こう。」 銀太が、不満そうな顔で言う。 「探しに行かないと、また遅くなるよ。」 続いて、千恵も訴えた。 それを諌めるように、占い師が怖い顔つきになって、二人に言う。 「分かってる。仕事中なんだから、もう少し待ってろ。」 その時、店の前に、黒い影が立ちはだかるようにいつの間にか存在していた。 占い師と千恵と銀太、客の水間も驚いた声を出す。 その黒い影の人物は、スラリと背が高く、黒っぽい上下のスーツと真っ黒な革手袋をしていて、異様な雰囲気を漂わせていた。 「ちょっと・・、あんたも占いをしたいなら、順番だよ。まだお客がいるんだから、そこで待っていておくれ。」 すかさず、占い師がその人物へと投げかける。 しかし、そんな言葉はまるで聞こえていないかのように、無造作に伸びたグレーの長い髪の間から、全く瞬きもしない瞳で、ただじっと千恵と銀太の方を見つめていた。 「・・ここに、いたか。」 深い海に沈み込むような声で言う。 この突然の状況に戸惑い、怖くなった客の水間は、悲鳴を上げて逃げ去っていった。 すぐに大声で、呼び止めようとする占い師。 「あっ、ちょっと〜! 占いがまだだろ〜!」 遠くへと逃げ去っていく水間。 またもや客を逃した占い師は、怖い顔つきになった。 「あのさ〜、あんたのせいで、大事なお客が逃げていっただろ! 営業妨害だよ!」 占い師は、怒鳴り上げるような声で、その異様な人物に言い放つ。 恐れて身動き出来ないでいる千恵と銀太がそこにいたが、異様な人物はスッと近づいてくると、千恵の頭を掴もうと手を伸ばしてきた。 その瞬間、占い師が間に割り込み、その人物の手を激しく弾き飛ばす。 「アンタ! どういうつもりだい⁈ 仕事の営業妨害までして、今度は子供にまで手を出そうとするなんて! 」 黒い雰囲気の異様な人物は、そう言われて占い師の方へと返答した。 「私は、怪しい者ではない。」 それに対して、更に声を荒げて言い返す占い師。 「どう見たって、怪しい人物だろ!」 瞬きもせず、その人物は話を返した。 「プレビオス・ライファー。・・私は、前世を生きる者。」 「プレビ⁈ ライハー⁈ 何だい、それ? 英語は分からないよ。」 占い師が言い返す。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加