Side story

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「あのさ〜! それがダメだって言ってるんだよ! 自分の体の事だろ! 特に今の時代、女性の乳癌や婦人科系の病気が増えてきているって話だ。怖かろうが何だろうが、病院へ検査に行って、しっかり調べてもらうべきだよ! 分かったか?」 初対面で、そんな説教をされて更科は、言われるがまま返答するしかなかった。 「あ、は、はい。分かりました。」 「分かったなら、すぐに行きなさい。」 占い師は、厳しい顔で言う。 更科は頭を下げると、犬を抱えたまま、その場を立ち去っていった。 その場に残った占い師は、しばらくして独り言を呟く。 「・・・しまった。また、客を逃してしまった。」 それらの状況を、じっと見ていた一人の若い男性が、そそくさと占いテーブルに近付いてきた。 白いTシャツとジーパン姿の、小太り体型の男性である。 「あの・・。」 椅子に座ったままの占い師は、ギロリと睨みつけた。 「あの、占いしてください。俺は、病気とかじゃなくて、彼女が出来るかどうかを・・。」 そう言い終える前に、大きな声で占い師が告げる。 「無理! 彼女は、しばらく出来ない! 以上!」 「あ、いや・・きちんと占い師で見てくださいよ」 小太りの男性は、すがるような声で言ってきたが、 「占いしなくても見れば分かるから。以上!」 と占い師が返した。 キッパリとあしらわれた小太りの男性は、仕方なく渋々と立ち去っていく。 再び、静かになった状況で、椅子にゆったりと座ったまま占い師は呟いた。 「今日は、いつになく騒がしい日だよ。何か、嫌な事が起こる前触れでなければイイが。」 誰もいない静かな、古い自動車工場。 日中だというのに、工場内は薄暗く、埃の臭いにまみれていた。 その錆びれた建物の物陰に、千恵と銀太が隠れている。 ここは、商店街から道を外れて、自転車一台が通れるかどうかの細い路地を抜けた、廃工場だ。 普段から、人が近付かない場所である。 「あいつ、ヤバかったな。」 銀太が小さい声で言った。 「ここなら、あいつも来ないよ。」 傍にいた千恵が返す。 二人はまるで緊張感のある、かくれんぼをしているかのようであった。 「あいつ、俺たちの頭を触ろうとしてた。」 「なんか、『前世』の事を消すとか言ってたよね。」 隠れたまま、二人は小声で話す。 「絶対に、捕まったらダメだ。」 銀太がそう言った時、工場内の奥の方で、誰かが話をしている声が聞こえた。 二人はそっと、その話し声のする方へと移動する。 工場の奥にある錆びれた部屋で、二人の大人が何か話しているのが分かった。 「誰か、いる。」 銀太が小声で言う。 千恵と銀太が、静かに様子を見ていると、どうやら二人のその大人は激しく言い争っているようであった。 そのうちの一人の男性は、肌の色がコーヒーのように黒くガッシリとした体型で、グレー色のパーカーを着ており、手には白い粉の入った袋を持っている。 「お前は、これがどれだけ重要な代物か分かってるのか!」 もう一人の男性は、金髪の髪色でタンクトップを着ており、腕の位置に入れ墨が見えていたが、地面に跪いていて必死に謝っていた。 「勇次さん! 分かってますけど。どうか許してください!」 しかし、それに構わず、勇次という男性は更に怒りを露わにする。 「許されるわけねぇだろが! ここで殺されたいのか!」 皆川 勇次。 皆川は、狐のように釣り上がった目で睨みつけ、口髭のある口で怒鳴る。 その状況を見て千恵と銀太は、只事ではない事を悟り、声も出せずにお互いに目配せをした。 「この野郎! 俺をなめやがって!」 皆川が、跪いている男性を足で踏みつけはじめる。 「ぐはっ! か、勘弁してください!」 男性は地面に転がりながら抵抗できずにいたが、それに構わず皆川が、顔や体を蹴り飛ばした。
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