Side story

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この状況を見て、千恵と銀太は言葉も出せずに息を呑んでいたが、やがて二人は傍にあった階段の方へと移動し、静かに上りはじめる。 手摺りも踏み台も鉄製で出来ている階段であったが、経年による劣化で錆びついていた。 皆川たちに気が付かれないように、ゆっくりと階段を上っていく千恵と銀太。 その間にも皆川は、相手の男性に暴行を続けていた。 およそ10段以上ある階段を、無事に上っていく二人。 階段は壁などに阻まれてなくて、工場内の全体が見渡せる作りになっていた。 上り詰めた千恵と銀太には、小さな工場内の全貌と向こうで争っている皆川と男性の姿が、よく見える。 上り詰めた階段は、壁側に一つドアが付いていて、どうやらそこから外側へと出られるようになっているようであった。 二人は再び、ゆっくりとそのドアへと近付いていき、ドアノブへと手を伸ばす。 あいにく鍵などはかかっていなかったが、ここも経年によるものか、ドアノブが錆びついて硬くなっているのだった。 二人で一緒にドアノブを握り、力一杯必死に回して空ける事を試みる。 やがて、ガグッという鈍い音とともに、ドアノブが回り、そのドアが開いた。 思っていた通り、開いたドアの先には、工場の外の景色が見えており、そこから出て階段を下りれば、外へと出られるようである。 千恵と銀太が、そのドアを開けて外側へと出ようとした時、ちょうど風が吹き込んできて、その勢いでドアが激しい音を立てて開いてしまった。 バダン! その音に気が付いた皆川たちが、こちらを見ており、二人の存在を知ってしまう。 「何だ⁈ ガキが二人いるぞ! あいつら、見ていやがったな! 逃すな!」 皆川はそう言った後、千恵たちを追って階段の方へと歩み寄ってきた。 途端に危機感が最高潮へと達して、慌てて外側へと移動する千恵と銀太。 そこも大人二人分ぐらいのスペースの踊り場になっていて、そこからまた10段程の階段を下りれば、工場外の敷地へ辿り着く事が出来る。 「待て、コラッ〜!」 唸るような声で、追いかけてくる皆川。 急いで階段を下りようとする二人。 その時、銀太が足を踏み外し、体勢を崩した。 「あ、危ない!」 咄嗟《とっさ》の事に、千恵が銀太の体を支えようとするが、その重さと大きさを止める事が出来ず、二人とも一緒に階段を転げてしまう。 工場外の階段の下で、千恵と銀太は倒れ込んでいた。 幸いにも、二人ともすぐに体を起こして、座り込んでいたが、それぞれ身体のどこかを打ちつけたようで部位を押さえる。 「あいててて・・・。」 銀太はお尻を打撲したようで、立ち上がれずに、そこを摩っていた。 「俺、お尻を打ったよ。」 千恵の方は、頭を打ったようで、痛そうに手で押さえている。 二人とも、外傷的には出血もなく、大事には至らなかったようだ。 そのうちにも、後を追いかけてきた皆川が、先程のドアから身を乗り出し、工場階段の上で二人の様子を見ている。 「ほらほら、ガキが逃げるからだろ。おとなしくしていろ。」 そう言って皆川は、ニヤニヤしながら、階段を下りはじめた。 千恵と銀太は、再びその恐怖を目の当たりにし、打撲した痛みなども忘れ飛び上がるように立ち上がる。 「ヤバイぞ! 逃げろ!」 二人はすぐに工場の敷地を出て、細い路地を駆け出していった。
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