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そうして、特に使い物にならなくて置き場に困ると思われるベルの有効活用の打開策として、店の窓口の箇所に丈夫な紐でぶら下げてみる。
タコ焼き屋の窓口には、とても似つかわしくないシルバー色のベルが飾られたのだ。
千恵の方は、その様《さま》に喜んで騒いでいたが、自分の手を伸ばし、そのベルを叩いてみる。
カラァ〜〜〜ン、カラァ〜〜〜ン!
叶恵はその音を聞きながら、腕組みして、
「まあ、コレも良いか。」
と一応の納得をして呟いた。
千恵の方は、ある違和感に気がついて、何かを思い出そうとする。
この音、どこかで聞いた事がある。
鐘の音・・・。
千恵の頭の中に、その答えがハッと浮かんできた。
「この音・・・。」
千恵はまた、ぶら下げられたベルに手を伸ばし、強く叩いてみる。
カラァ〜〜〜ン、カラァ〜〜〜ン!
そこで、見かねた叶恵が注意した。
「コラ、千恵。オモチャじゃないよ。何回も遊ばないの。」
全てが分かり、諦めていた謎に気が付いた千恵は、嬉しくなって叶恵に伝える。
「この鐘よ。この鐘なのよ。」
「はっ? 何がこの鐘なの? 何の事よ。」
意味がよく理解出来ない叶恵が、聞き返した。
飛び跳ねて喜ぶ千恵。
「この鐘〜! この鐘〜!」
喜びはしゃぐ千恵に対して、どういう事なのか全く理解出来ないでいる叶恵。
「は? 何? このベルが欲しかったの?」
その後も到底、叶恵が知る由もなかった。
「私が見たのは、この鐘の音で・・。そしたら、この店に何かが・・。」
千恵は、妄想のように何かを考えながら、独り言を言う。
「千恵。何を言ってるのか、さっぱり分からないんだけど。」
叶恵はただ、首を傾げるしかなかった。
このベルの音は、千恵が銀太の『前世』を見た時に、映像として脳裏に浮かんできたものだったのだ。
たったそれだけの情報を頼りに、あてもなく可能な限りの範囲を探し回っていたのであるが、それを諦めかけていた時に、偶然にもそのキッカケとなる場所を見つける。
まさにそれが、千恵の家であり、母親・叶恵が経営するタコ焼き屋の店だったとは・・。
千恵は、それを見つけた喜びとともに、これから何かが起こる予感に、胸を躍らせていた。
運命の導きとは理屈でもなく、また人間の想像では到底考えられない奇跡に近い巡り合わせであると言われている。
そのうちに、再びタコ焼きの調理をはじめる叶恵をよそに、千恵はぶら下げられたベルをただ眺めていた。
そして嬉しさのあまりに、小さな手でそのベルを叩いて、音を響かせてみせる。
ベルの音、或いは鐘ともいえるその音は、気高い輝きに満ちた音色であり、また反対に悲しげな天使の歌声にも似た印象を、辺りへと響かせていった。
その時、タコ焼き屋の前の通りを30歳代ぐらいの二人の女性が話しながら歩いてくる。
「ほら〜、冴子《さえこ》〜。せっかく旅行に来たんだから。少しは笑顔を見せて。」
そう話していたのは、ショートカットの栗色の髪色女性で、友人を慰めていた。
もう一人は、黒髪で細身体型をしており、活気がなく苦笑いを浮かべている。
二人はその場で立ち止まった状態で、栗色の髪女性の話が続いた。
「もちろん、冴子の気持ちも分かるよ〜。7年経ったといっても、それで簡単に元気になれるはずがないって。だけどね、それで那智くんが喜ぶっていうの?」
俯き加減な様子の黒髪の女性が、顔を上げて返答する。
「・・・そ、そうだよね。このままじゃダメだよね。」
黒髪の方の女性の名前は、御影《みかげ》 冴子。
御影 冴子。30歳。
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