泡沫の言祝ぎを

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 朝日は昇る。  どんな者にも平等に。  そう、この世はいつでも平等なのだ。  指先から感覚が消えていく。ついにこのときが来たのだ。覚悟は決めていたが、やはり、少し怖い。  朝日に溶けるかのように、しゃらしゃらと、宝石のように泡になる。痛くもなく、苦しくもない。あんなにずきずきと痛んでいた足も、せめてもの慈悲か、本物のように痛みなく動いた。そのことに、安堵の息をつく。  声ももう出ない。ああ、もっと歌いたかったのに。涙腺すらも泡になってしまうのか、飛び散る雫がやけに綺麗だった。  ルーナの歌を見に来てくれたみんなが、悲しげにキュウキュウ鳴いている。ルーナも、ごめんね、ごめんね、と鳴いて、どろり、と足元が崩れていった。泣きじゃくるおねえさまの姿もある。精一杯の、謝罪と、感謝を呟きながら、とろとろと石鹸のような泡になっていった。 (おねえさま。みんな。私はね)  もう魔女のもとへ"返って"しまったのだろう声で、ぽつりぽつりと囁き、微笑む。 (幸せだったのよ)  海での生活も、陸での生活も。苦しくても辛くても、嬉しいこと、楽しいことはいっぱいあった。  どうしようもなく幸福だった。  悔いなき生だった。 (でもね、でもね。叶うのなら……)  どうせ、この肉体も消えてしまうのなら。  どうか、夢じゃなかったと叫ばせて。
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