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 ただいま、とバッグと買い物袋を引きずりながらリビングに入れば息子がマンガを読んでいた。足元にはゲームの本体が置いてある。 「ちょっと翔太。片付けてから別のことやってよ」  そう言うと翔太は、あとでやるつもりだったんだよ、と唇を尖らせた。そのあと、リビングに入ってきたのは夫だった。あくびをしながら背中をポリポリと掻く。 「いつまで昼寝してるの、洗濯ものとえてくれた?」 「ごめん、まだ。いまやるから」  夫が伸びをしながら靴下やワイシャツをとえ始める。 「もう日が暮れる前にとえておいてよ。あと、掃除機もかけてないでしょ」 「できるわけないじゃん。部屋汚いし」  翔太がぽつりと呟く。周囲を見回してみると、確かにこの前畳んだ服は出しっぱなしで積んであるし、頼んだ荷物は封も開けていない。 「お母さんは仕事で忙しいんだから。少しくらいお手伝いしてよ、小学4年生でしょ」 「だって、分かんないもん」  翔太は顔にマンガを乗せると、そのままソファにもたれ掛かった。もうこっちは仕事も家事も全部やってるのに。ため息をつくと、スマートフォンが鳴る。電話に出ると、図書館からだった。 『先日お借りいただいた本なんですが、返却日が一週間過ぎておりまして』  申し訳なさそうにいう図書館の人に慌てて本を探す。スマートフォンを持ちながら空いた手で積み上がった箱や服を避けていく。 『予約が入っている資料もありますのでお早めに』  図書館の人が続ける中で見つけたのは、ドラマ化して話題の小説。やっと順番が回ってきたの3ページしか読んでない、けど。 「分かりました。明日返却します」 『よろしくお願いします。それでは失礼します』  失礼します、となんとなく頭を下げてしまう。ふと夫と翔太を見れば、人のこと言えないのではと言いたげな視線が刺さった。 「へ、返却期限間違えてたみたいなの。あと9冊あるから一緒に探して」 「あ、うん。分かった」  洗濯ものをその場に山積みにして置いたあと、夫も服をよけ始める。翔太が顔を上げると、マンガはお腹へ滑り落ちた。 「10冊も借りてるの? 読み切れないのに」 「それはいいから翔太も探して」  翔太もめんどくさそうに返事をすると、返却本探しに付き合った。 ※とえる→取り込む、取り入れる。佐賀、長崎あたりで使用される方言。
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