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「いやー、ありがとうございました!マジ怖くて自分じゃ謝りにいけなくて、ほんと助かりました」
30歳かそこらだろうか、歳の割に軽薄な雰囲気の男はそう言って頭を搔いた。
金のためとはいえ、20代前半の女ざかりがこんな男のためにプライドを捨てて土下座したのかと思うと悲しくなったが、そんな男へ、代田はつい先ほどまで必死に土下座していたことを感じさせないような朗らかな表情を向けていた。
「いえいえ、ご用とあらば、どんな人材もお貸しします。ほら、お渡しして」
代田に促され、樫本は鞄からチラシを取り出した。
「人材レンタルサービスのご用命は弊社『ヘルプキャット』まで。どうぞごひいきに」
ありったけの疲れを吐き出すように大きなため息をつくと、樫本は休憩室のイスにどさっと腰を落とした。
土下座のあと、相手の中年男は何で本人が謝りに来ないんだとヒートアップした。怒鳴り声が今も耳にこびりついているような気がする。
ひたすら頭を下げ続け、ようやく矛を納めさせたときには一時間が過ぎていた。
報酬が出るとはいえ、他人の不始末で罵声を浴びせ続けられるのがこんなにもしんどいとは思わなかった。
「他のバイト探そうかな……」
思わずぼやいた丁度そのとき、代田が入ってきた。
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