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「はああ……」  一人暮らしのアパートで、朝、目覚めてから何度目かわからない、大きなため息を吐いた。卒業旅行当日だというのに憂鬱で仕方がない。夜もあまり眠れなかった。  こんなことじゃあ、二人に心配をかけてしまう。と気合を入れ直し、洗面所でバシャバシャといつもより勢いをつけて顔を洗う。  しかし、どうしてもタカフミの様子が気になってしまう。彼はあの後、大丈夫だったんだろうか? まさか、私がルイと引き合わせたせいで、病気になったり、最悪の場合、死んじゃったりするんだろうかと。  かといって、初対面で幽霊が見えるなんて言って啖呵を切った上に、事情も話さずに逃げてきた手前、バイト先まで無事を確認しに行くのもまた気不味い。 「大丈夫、だよね。ルイだって、殺したりするような危ない子じゃないよね」  鏡に写った自分に言い聞かせるように、私は言う。  当然、答えなんて返ってこない。  はずだった。 「ナナエさんには、私が物騒な人間に見えてたの?」  誰も居ないはずの背後から声が聞こえて、私は肩をビクリと跳ねさせて「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。  ルイが何事もなかったように立っているのを、鏡越しに確認する。別れ際の黒いドロドロしたものは纏っておらず、後ろの壁が透けて見えている。  びっくりした私は足を滑らせ、床にお尻を強かぶつけた。それでも痛みよりも驚きが先行して、口をパクパクとさせていると、ルイは愉快そうに笑った。 「ふふっ。そんなに驚かないでよ」  驚かせたのはそっちのくせに。いや、それよりも……。 「恋人についていったんじゃあ? 成仏は? それに、どうやってここまで来たのよ?」  私が矢継ぎ早に尋ねると、ルイは面倒臭そうに首を傾けた。 「タカフミの家までちゃんとついて行って、初めて彼の生活の一部始終を見られたんだから、幸せだったよ。でも、彼がトイレに行くのを見たら、急に白けちゃって。ああ、彼もトイレに行くんだなあって」  残念そうに、ルイは大きく息を吐いた。  彼に幻滅したポイントがよくわからないけど、アイドルはトイレに行かない。と同じような幻想を抱いていたんだろうか。 「それに、彼ってばわたしが見てるにも関わらず、彼女とイチャイチャするんだもん。場を弁えてほしいよねっ」  両手の拳を上下に振り、憤るルイに私は「あはは……」と苦笑する。ルイの姿は彼に見えていないんだから、当然だろうに。
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