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時間が止まってしまったかのように、以前と変わらない風景がそこにあった。食器棚もテーブルも、少し古い冷蔵庫やキッチンも――どれもこれも、五年前と何も変わってはいない。懐かしさを感じる一方で、変化がないという事に一抹の不安も生まれる。
「……あのさ」
キッチンで麦茶を注いでいる叔父さんの背に声をかける。それだけで叔父さんは、あからさまに肩を跳ね上げた。
「何だ?」
叔父さんがゆっくり振り返る。
「……叔母さんは?」
この家に踏み込んだ時点で、何となく覚えた嫌な予感。僕はそれを確かめずにはいられなかった。
叔父さんは力なくシンクに背をつける。その時点で、僕の中で疑念が確信に変わった。
「……もう、ここにはいない」
どうしてとは、僕には聞けなかった。それは叔母さんが、この世から完全にいなくなったということだからだ。
叔母さんは十年も前に死んでいる。だけど、叔父さんには、死んだ叔母さんが見えていたようで、ずっと生活を伴にしていたのだ。
そのことで僕の両親は、叔父さんがおかしくなったと思い込んでいた。だけど、僕には叔父さんが本当に、叔母さんのことを見えていると思っていた。
僕には見えずとも、隣を見ながら幸せそうに話す叔父さんの姿は、とても演技しているようには見えなかったからだ。
それに叔母さんが死んだ時の叔父さんは、見るに堪えない程に落ち込んでいて、生活もままならずにいた。掃除されていない部屋は、ゴミで溢れていたし、食事もろくにとっていないせいで、どんどん痩せ細っていた。
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