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18.再会は、必然か偶然か(佐藤健太)
篠原さんからあの日メッセージをもらってから、かなりの日数がたっていた。しかし、篠原さんは、まだ喫茶店にはやって来ていなかった。
(仕事が忙しいのかな…)
健太は、ついつい仕事の合間に彼女が良く座っていた席を見てしまった。そんな健太の姿に気がついたのか、健太はマスターに声をかけられた。
「篠原さん毎週来てくれていたのに、最近来ないですね」
「はい。なんだか忙しいみたいでなかなか来れないって言ってました」
「そうか。それは残念ですね」
「大丈夫ですよ。また、来てくれますよ」
健太がマスターを励ますように言うと、マスターはそんな健太を見て笑った。
「いや。私じゃなくて、健太の方が篠原さんに会えなくて、寂しそうだなと思っていたんですよ」
「そりゃあ、ちょっと寂しいなとは思いますけど…」
「本当にちょっとですか?今日も、ずっと寂しそうな顔で席を見てましたけど」
「俺がですか?」
「気がついていなかったんですか?」
健太は、確かに篠原さんに会えない事に少し寂しさを感じていたが、まさか表情に出ていたとは思わず、恥ずかしさで顔をそらした。
「それにしても、健太と篠原さんは不思議ですね」
「不思議ですか?」
「まだ会って、1ヶ月くらいだと言うのに、二人が話しているのを見ていると昔からの知り合いみたいに見えますよ。雰囲気がなんか似てる気がします」
「そんな風に見えますか?」
「最初は、健太が片思いしてるのかなと思ったんですが…」
「俺が篠原さんにですか?」
「はい。でも今考えると、二人の間に流れる空気は、どちらかと言うと恋人よりずっと一緒に過ごしてきた仲間みたいな感じですかね」
「仲間…。確かに篠原さんと話すのは楽しいです。いろいろ相談にものってもらったし」
「何でも相談できる良き友人だったんですね」
『良き友人』
そのマスターの言葉は健太の心をざわつかせた。
(篠原さんの事を考えると、少し胸が苦しくなるのは、大切な友人との縁をそれくらい大事に思っているから?そして、それが切れてしまいそうで今不安に感じているだけなのか。それとも、この気持ちは…)
そんな時に健太が思い出すのは、篠原さんが健太の恋を応援してくれた時の事だった。彼女は、心から健太と未来ちゃんの恋が上手くいくようにと願っていたし、なかなか踏み出せないでいる健太の背中を強く押してくれていた。
(そうだ。篠原さんは、大切な友人だし俺の幸せを願ってくれていた。だから、いつまでもうじうじしては駄目だ)
健太は、もう迷わないと心に決めた。
(俺が愛しているのは未来ちゃんだ。それにちゃんと気持ちを伝えるんだ)
次に会った時に、いい報告が出来たらきっと彼女は喜んでくれるに違いないと健太は篠原さんのあの優しい笑顔を思い出していた。
そんな週末を過ごしてしばらくたった頃、健太は篠原さんと意外な場所で再会した。
その日、健太は仕事終わりの未来ちゃんと待ち合わせの為、未来ちゃんの職場の近くの駅にいた。
(ちょっと早く着きすぎたかな…)
約束の時間の少し前、健太の携帯にメッセージが届いた。
『健太さん、ごめんなさい。ちょっと仕事が長引きそうなの。終わったらすぐ連絡します』
『大丈夫だよ。お仕事頑張って』
健太は、未来ちゃんにメッセージを送ると時間をどこで潰そうと考えてまわりを見回した。すると、知っている後ろ姿を見つけた。
(あれは…)
健太は、その人を呼び止めた。
「篠原さん」
驚いた顔でその人は振り返った。
「佐藤さん?どうしてここに」
「未来ちゃんと待ち合わせ。でも、仕事が長引いているみたいで今時間を潰せそうな所に行こうかと思ってたんだ」
「そうなんだ。もしかして今日が未来ちゃんの誕生日?」
「うん」
「告白頑張ってね」
篠原さんと話をしていると、空から突然雨が降りだした。健太達は、慌てて駅へ駆け込んだ。
「どうしよう。俺、傘持って来てないや」
「私、折り畳み持ってきてるから一緒にコンビニに行く?そこで傘買ったら?」
篠原さんはカバンからあの時と同じ赤い傘を出した。
「今日も雨だね」
「え?」
「初めて会った時もこんな風に突然の雨が降ってきた時だったなと思って。それにしても、今日、雨降るなんて知らなかったよ。篠原さんは、用意がいいね」
「言ってなかったっけ?私雨女なの」
「そうなの?だから、初めて会ったときに雨が好きかって聞いたんだね」
「あっ…、うん」
「やっぱりそうか」
「ねえ、早く行こう。コンビニの傘売り切れちゃうよ」
健太達は、篠原さんの傘に入って駅前のコンビに急いだ。何とか傘を手に入れた健太は、篠原さんをコーヒーショップに誘った。
「付き合ってもらったお礼にコーヒー奢るよ」
「いいの?ありがとう」
「買ってくるから席に行ってて」
健太はコーヒーを2つ買うと席に向かった。
「ありがとう」
「ブラックで良かったよね?」
「うん。あれ、佐藤さんも?」
「うん、俺もブラック」
「そっか」
会話の後、何故か篠原さんは寂しそうな顔をした。その理由が健太には分からず戸惑った。
(篠原さん、どうしたんだろう?)
「篠原さんの赤い傘綺麗だよね」
健太は、雰囲気を変えたくて、彼女に話しかけた。
「ありがとう。雨に濡れると模様が浮き出たりして気に入っているんだ」
篠原さんはそう言うと、少しだけ恥ずかしそうに笑った。彼女に笑顔が見えた事に健太は少しだけほっとした。
(篠原さんには笑顔がやっぱり似合う。大切な友達だから、悩んだりしてる事があれば相談してくれればいいのに)
そんな風に健太は思った。
だからだろうか。健太は、気がついた時には篠原さんにあの話をしていた。
健太はふと外に目をやった。そこには色とりどりの傘が歩いていた。その光景を見ていると、健太はあの写真の事を思い出した。
「そう言えば、俺探している傘があるんだ」
「欲しい傘があるの?どんな傘?」
「スカイブルーの傘なんだ」
健太の言葉に、何故か彼女がビックリ顔で健太を見た。
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