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22.私の選ぶ道は3(篠原花菜)
花菜は、修哉の部屋の前に立っていた。
(もう、迷わない)
いきおいよく部屋のドアを開けると、花菜は部屋に入り無心で段ボールに修哉の荷物を詰めはじめた。元から少ない荷物だからか、迷う事なく詰めればあっと言う間に詰め終わってしまった。
「さて、この詰めたものをどうするかだな」
すっきりした部屋には、衣服、本、カメラや写真関連などに分類された箱が並んでいた。
(記憶が戻ってない修哉に渡す訳にもいかないしな…。それなら、やっぱりもったいないけど、捨てるしかないか)
花菜は、引っ越しの際に出るいらないものは、回収業者にお願いするつもりだったので、修哉の荷物もついでにお願いする事にした。
「さあ、荷物の片付けも終わったし、次は…」
花菜は、携帯を取り出すと、電話をかけ始めた。
数コールの後、相手が電話に出た。
「花菜?どうした?」
花菜が電話したのは、爽太だった。
「爽太、今日の夜時間ある?ご飯食べにいかない?」
「花菜から誘いの電話なんて珍しいじゃん。何か怖いな」
「なにそれ。来るの?来ないの?」
「そんな怒るなよ。もちろん行くよ」
「じゃあ、いつもの居酒屋に19時集合で」
「分かった」
「じゃあ、後でね」
「了解」
花菜は電話を切ると、行く準備を始めた。
花菜が指定したのは、爽太に初めて気持ちを伝えられた時に訪れていたあの日と同じ居酒屋だった。
爽太が求めている答えではないが、それでも一つの区切りを迎えた花菜は、それを爽太に伝える為に爽太を呼び出したのだ。
花菜が居酒屋に到着して数分後、爽太が後からやってきた。
「ごめん、遅れたか?」
「大丈夫。私が早く来ただけだよ。まだ約束の5分前」
「そっか、良かった」
「さあ、早く中に入ろう」
花菜は、爽太の腕を引っ張ると早くと急かした。
「分かったから、そんなに引っ張るなよ」
「だっておなかすいちゃったんだもん」
席も空いていたので、二人はすぐに案内された。
「さあ、何にする?」
「どうかした?何か今日は変だな」
「そう?」
「何かいつも以上にテンションが高いっていうか…」
いつもの様子と花菜が違うので、爽太は不思議そうに呟いた。
「そんな事ないよ」
花菜は、ごまかすように笑ったが内心ドキドキが止まらなかった。
(今日は、ひとまず区切りをつけた事だけ報告するつもりで爽太を呼び出したんだけど、私、知らないうちに緊張してるのかな)
二人は、結局いつものお決まりのメニューを頼んだ。
花菜がメニューを片付けて爽太を見ると、まだ怪しんだ目で花菜を見ていた。
「そんな目で見ないでよ」
「でもさ」
「とにかく、食べよう」
「分かった」
二人は、お酒と料理が並ぶと食事を始めた。
「相変わらずここの料理はおいしいね」
「確かに。でも、今はそれより俺を呼び出した理由を知りたいんだけど」
爽太の言葉に、花菜は箸を一旦置いた。
「あのね、私、修哉の荷物を片付けたの」
「それって…」
「ちゃんと区切りをつけようと思って」
「もういいのか」
「うん。でも、ごめんね。爽太との事はちゃんとした区切りをつけたらしっかりと向き合いたいからもう少し待ってくれる?」
「それはいいけど、ちゃんとした区切りって?」
「今度、佐藤さん、いや修哉にちゃんと別れの挨拶してこようと思う」
「また、彼に会いにいくのか?」
爽太が心配そうに花菜を見ていた。そんな爽太に花菜は心配いらないと笑いかけた。
「彼は、私の事情なんて知らないし、一応私達友達っての事になってるから」
「でも、…」
「突然連絡が取れなくなる辛さは誰よりも、私知ってるから。それなのに、今度は私が突然連絡とらなくなって消えてしまうのはおかしいでしょ」
「花菜…」
花菜の言葉に爽太は、もう何も言えなかった。
「大丈夫だから。もう、ちゃんと心は決めているから。修哉は、記憶がないんだもん。今さらいろいろ考えてもどうしようも無かったんだよね」
「花菜は、それでいいんだな」
「うん。引っ越しするつもりだったし、とにかくもう会えなくなるってちゃんと伝えてくる」
「分かった」
爽太は、まだ複雑そうな顔をしていたが、花菜は笑って話しかけた。
「さあ、話は終わったし料理食べよう」
「そうだな」
その後、二人は楽しく食事をした。
爽太は食事中、この話についてもう何も言わなかったが、帰り際に一言だけ「頑張ってこいよ」とだけ花菜に言って、二人は分かれた。
家に戻った花菜は、携帯を取り出しメールを送った。
もちろん、送り先は健太として生きている修哉だ。
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