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23.この気持ちの正体は1(佐藤健太)
健太は、今日も朝一で携帯を取り出してメッセージを確認した。
「まだ、既読つかずか…」
メッセージを確認した健太は、深いため息をついた。
篠原さんに告白が成功したとメッセージを送って、数日たった。
しかし、彼女から返信がこないどころか送ったメッセージに既読さえつかなかった。
「何かあったのかな?」
健太は、あの日別れ際に見せた彼女の少し辛そうな顔が忘れられなかった。あの表情の原因が仕事なのか、それとも私生活なのか健太には分からなかったが、ただ何も相談して貰えない事が寂しかった。
「友達だと思っているのは、俺だけなのかな…」
健太は、寂しそうに呟いた。
そんな寂しい気持ちを抱えながらも、健太は今日も喫茶店で働いていた。
今日も喫茶店には穏やか時間が流れており、健太は気がつくとついつい篠原さんの事を考えてしまい、カップを拭く手も止まりがちになっていた。
「どうした、健太」
元気が取り柄の健太のそんな姿は、やはり目に止まったらしく、健太は常連さんに話しかけられた。
「何でもないですよ」
「何でもないって訳はないだろう」
「本当に、大丈夫ですから」
健太が誤魔化すように笑いと、それに対して常連さんはニヤニヤわらった。
「なんだ、未来ちゃんとの事で悩みでもあるのかと思ったのに」
まさかの常連さんの言葉に健太は驚いた。
「未来ちゃんとの事って、いったい何を言ってるんですか」
「健太、未来ちゃんと付き合ってるだろう?」
「え?」
「誤魔化しても駄目だぞ。目撃者がいるんだから」
常連さんは、からかうように健太を見て笑った。
「目撃者って何ですか?」
「この前、未来ちゃんと二人で帰ってきただろう」
そこまで言うと、健太を手招きした。そこで健太が近づくと、常連さんは小声で言った。
「道端で抱きあってたらしいな」
「なっ!?」
「バカ!声がデカイ」
健太が突然声をあげるので、健太は常連さんに頭を叩かれた。
「痛っ!もう、誰が言ってたんですか」
「俺の孫が塾の帰りに二人を見たんだと」
「え!」
「数日前、孫が元気がなくてな、理由を聞いたら教えてくれたんだ。あいつ未来ちゃんの事好きだったからな。かなりショックだったんだろう」
「それは、…」
健太があまりにも情けない声を出すので、常連さんは健太の体を軽く叩いた。
「まあ、健太が気にする事じゃないよ。男女の恋愛なんてそんなもんだろ。それより、さっきの話に戻るけど、悩みの種は何なんだ?」
「それなら、本当に未来ちゃんの事じゃなくて、友達の事です」
「なんだ、ケンカでもしたのか?」
「ケンカというか、友達が悩んでいる事があるみたいなんですけど、何も話してくれなくて…」
「悩みか…」
「俺って頼りないですかね」
常連さんは、うーんと唸り、腕を組んだ。
「その友達がどんなやつかは分からないが、俺だったら無理に聞き出すんじゃなくて待つかな」
「待つんですか?」
「どうした?って何回も聞いてやるのも愛情だとは思うが人間、人に話したくない事の一つや二つある。それを話したくないのに無理やり聞き出すのも違うんじゃないかなと思ってな」
「そういうもんですかね」
「まあ、最終的には健太が決める問題だがな」
「分かりました。ちょっと考えてみます」
その後、常連さんは、頑張れと健太を励まして帰っていった。
(頼ってくれるまで待つか…。確かに、俺達は男女の違いもあるし、俺には相談しづらい事だってあるよな)
少しだけ、心が軽くなったような気もしたが、それでも、完璧に心が晴れる事はなかった。
頭では分かっているのだ。常連さんの言葉の意味も、待つ事の大切さも。
でも、何故か篠原さんから連絡がないという事に、ここまで悩んでしまう理由も健太には分からなかった。
(俺、どうしたんだろう)
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様」
その日の仕事終わり、店を出ると未来ちゃんが店の前に立っていた。
「健太さん、お疲れ様」
「未来ちゃん、待っててくれたの?」
「ちょうど、私も仕事が終わって帰ってきたばかりだったから、会えるかなと思って」
「会えて嬉しいけど、女の子なんだから危ないよ。連絡くれれば俺が行くから」
「うん、ありがとう」
二人は、自然と手を繋いだ
「未来ちゃん、夕飯は食べた?まだなら何か食べに行く?」
「うん、行く」
「何が食べたい?」
「うーん、どうしようかな」
健太たちは、結局近くのファミレスに向かった。
「本当にファミレスで良かったの?」
「うん。ここなら何でもあるし、ドリンクバーあるからゆっくり出来るしね」
「それならいいけど」
「おしゃれなお店は、デートの時に連れて行ってくれる?」
「もちろん、いいよ」
「やった!楽しみにしてるね」
彼女は、まっすぐな愛情をいつも健太に向けてくれる。そして、健太は、今日も彼女のそんな明るく元気な姿に癒されていた。
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