いもうと。

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 ***  シングルマザーでありながら、バリバリに働いて私立大学までしっかり行かせてくれた母には感謝している。忙しくて疲れているだろうに、土日に遊びに連れていってくれた記憶も何度かあるし、夏休みには二人で旅行に行ったことも少なくなかった。優しいし、仕事はできるし、料理も美味いし、まさに自慢の母だと言っていい。  ただ、時々少し神経質というか、過保護ではないかと思う時があるのも事実なのだった。夜の就寝時間に関してもそう。もう私も二十一だというのに、十時に就寝しないと駄目!ときつく言い含められるのである。そりゃ、親に養って貰っている以上家のルールを守らなければいけないのはわかるが、それにしても成人した女に十時に寝ろというのは早すぎやしないだろうか。  それは即ち、夜少しでも遅くなりそうな飲み会の類にも一切参加できないということである。家の門限は九時と決められていた。それまでに必ず帰ってきて、十時までに寝るようにしろということである。  以前母に理由を尋ねたところ、こんなことを言われたのだった。 『夜中に交流したがるような人達が、まともな人間なはずないでしょ。そういう人達はシャットアウトした方がいいの。恋人にしろ友達にしろ、昼間に健全なお付き合いをしないさい。いいわね?』  最初は、その言葉を額面通りに受け取っていた私。しかし段々と、どうやらそれ以外に理由があるのでは?と思うようになっていったのである。  そもそも、我が家にはいろいろと謎が多いのだ。  例えば、父のこと。  私は、両親が私が小さな時に離婚しているらしいと聞いているが、実は父のことをちっとも覚えていないのである。二人が離婚したのは、私が七歳だった時のこと。つまり、本来なら記憶がないのはおかしい年齢であるはずなのに。  そして母も、私に絶対離婚した父のことを語ろうとしない。家には、父が映った写真の一枚もないようだ。そして父方の祖父母に会った記憶もなければ、母方の祖父母や親戚も一切父の話をしないのである。  父に関わる全てがタブー視されている、のは明らかだった。とすると、父と離婚した原因として考えられることはそう多くはない。父が借金か女を作って逃げたか、もしくはDV夫だったかのどちらかだろう。 ――ひょっとして、お母さんが私に対して厳しくしているのは……万が一、どこかでお父さんに会ったら、私に危険が及ぶかもしれないから?お父さんと遭遇することがないようにするために?  嫌な想像ばかりが、年々強くなっていく。 ――けど、それならそれで本当のこと言ってくれればいいのに。……お父さんの顔もわからないんじゃ、避けようがないでしょ。それこそ、就職先とか学校の関係者とかに、実はお父さんがいましたってこともあり得るんだから。
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