いもうと。

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いもうと。

『昨日の“名探偵の殺人”見ました?ネタバレしても大丈夫?』  ネット友達のサカイさんからそんなダイレクトメールが届いたのは、夜の十時を少し過ぎた時間だった。  もう私も大学生だというのに、未だに親は就寝時間に煩い。十時に電気を消せって子供か!といつも思う。ゆえに、私は今日も部屋の電気を消すと、布団を被ってこっそりスマホで返事を打つのである。  とあるSNSで知り合ったサカイさんとは、もう三年の付き合いになる。同じミステリー漫画(最近はドラマ化もされており、現在第三シリーズが放送中だ)が好きだったことで意気投合し、友人になったのだった。既に、親に内緒でこっそりと近所のカフェで会ったりもしている。目がくりっとした、とても可愛らしい年下の女の子だった。 『見た見た、十二話でしょ?ネタバレしてもオッケーだよ!』  私は布団の中に潜ってうきうきとメールを打つ。正直、ネタバレしたくてたまらなかったのはこっちも同じなのだ。だが、リアルタイムでドラマが見られる私とは違い、彼女はネット配信組である。配信の方がサイトの都合もあって数日遅れになるので、それまではどんなにドラマが面白くてもツイッターなどで呟くことは避けていたのだった。楽しみにしているサカイさんたちに申し訳ないという配慮である。 『良かった!ついさっき動画サイトで見たんですけど……わあ、何であそこで切るの!?ってくらいいいところで終わっちゃって。来週が楽しみすぎます!ミキさんは、暗号解けました?』 『むりむり。ていうか、私はサカイさんと違って推理しながらミステリー見るタイプじゃないもん。探偵が謎説いてくれるのを傍でカメラマンしながら眺めてたいタイプ?』 『ぷっ……それ、立木君のポジションじゃないですか!ヒロインの小雪ちゃんにならなくていいんですか?』 『それはできぬ!乱歩君と小雪ちゃんのカップリングが正義じゃ!間に割って入ることなど無理の無理よ!!』 『さすが、乱小ガチ勢ぱないですね……!』  母が厳しいということもあって、私はあまり自由に友達を作ることができなかった。特に、母は価値観が少々古い人であるらしく、とっくに成人した今になってもインターネットで知り合った人と会いたいと話すと絶対反対してくる人間である。  だから、サカイさんのようなネット友達は母には絶対秘密なのだった。せめて、ネットの世界だけで会話しているということにしなければ。 『じゃあ、来週土曜、駅前のノコノコで。十時待ち合わせでいいですよね?』 『もち!あ、スケッチブック忘れないようにね。サカイさんなかなか忘れっぽいからー!』 『この間色鉛筆忘れたミキさんに言われたくなーい』  そんな話をしながら、今日も今日とて就寝。私の、母に内緒の夜更かしの夜は過ぎていくのだった。
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