クラレンスは土の中

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 ***  そんな忍だが、実は幼い頃からちょっと妙な癖があるのだった。  それはまるで犬のように、庭に何かを埋める癖があるということである。以前弟にそれとなく尋ねたところ、“いくら兄ちゃんでも、それだけはだめ。絶対に近寄らないでよ”と言ってきたのだった。何やら、本人だけの重大な秘密であるらしい。 「だから、何が埋まってるか俺も知らないんだよな。弟がいない間に確かめようとしたことは何度かあるんだけど、あいついないと思ったらいつの間にか近くにいるし、なかなか隙がなくて。それに、弟が隠したいことをおいそれと暴くのも何だかなーってかんじで」 「ふーん」  教室にて。クラスメートで親友の霧人(きりひと)は、俺の話を聞いてにやりと笑った。 「きっとえっちなもんやな!間違いない!」 「霧人じゃあるまいし。ていうか、幼稚園くらいの時から埋めてるのにえっちなものはないだろー」 「いやいやいや、小さな頃だって女の人のオッパイに興味くらいあるやろ?俺なんか小学生の時からエロ動画見てたで?」 「最悪なカミングアウトすんじゃねえよアホ!」  関西出身の彼は、いつも本気か冗談かよくわからないことばかり言う。もしあの可愛い忍が、幼稚園くらいの時からえっちものに興味ありまくりだったら親が泣くぞ、と俺はげんなりした。ていうか、俺も泣く。 「まあ、ジョークはそれくらいにしといて」  どこまで嘘か本当かわからない男は、くるくるとシャーペンを回しながら言ったのだった。 「可愛い弟君なんやろ?本人が隠したい言うてはるんなら、あんま追及せんとき。仲悪くなったら嫌やろ?年頃の男の子やん、お兄ちゃんに秘密にしたいことくらいいくらでもあると思うで」  まあ、それもそうだ。俺は頷いて、それ以上考えるのをやめることにした。確かに“幼稚園くらいの頃から”同じことをしているのは気になるが、世の中にはちょっとしたことに強いこだわりを持つタイプの人間もいるもの。本当に、誰にも見られたくない宝物を埋めて隠しているだけなのかもしれない。 「せや、(かおる)。来週のカラオケ忘れたらあかんよ?土曜の一時にいつものカラ屋!次こそは芳よりハイスコア取って見せるからな、覚悟しとき!」 「ハイハイ」  そんな自分達が最近ハマっているのは、二人でカラオケに行って採点で勝負することだったりする。男二人でも淋しいなんてことはない。これも一つのゲームみたいで結構面白かったりするのだ。おかげさまで、最近はどんどん歌唱力が上達していたりするのである。  と、次の授業の用意をしようしたところで俺はゲ、と固まることになったのだ。現国に使っている水色のノートがないのである。 「……やべえお知らせ。俺ノート忘れたかもしんない」 「はあ!?ほんまにドジやな芳は!家に忘れたん?」 「多分。え、どうしよう……」  あと五分で授業が始まってしまう。困っていると、がらりと教室のドアが開いたのだった。そこに立っていたのは、弟の忍である。 「兄ちゃん、またなんか忘れ物しただろー?」  はい、と彼が手渡してくれたのは、“小森忍”の名前が入った彼のノートだ。 「僕の予備ノートあげるから、それ使ってよ」
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