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1.
窓越しに響く雨音で目が覚めた。
今は6月の半ば近く。じめじめとした梅雨の真っ只中である。
わたし、鴻那由多は雨の音が好きだ。でも雨は嫌いだ。
なんとなく頭がボーッと痛くなる。クセのある髪の毛は湿気を吸って膨れてしまい、整えるのに一苦労する。出勤前の面倒な準備が更に増えてしまう。
ああ、なんて面倒くさい。不満を声に出しながら起き上がる。
本当は雨そのものじゃなくて、雨の日の出勤が嫌なのだ。
とは言え、憂鬱だろうと何だろうと、行かねばならないことには変わりが無い。
業務内容自体はテレワークに出来なくもないけれど、今日は後輩の猫塚くんに作業の説明をする約束をしていた。
だから、在宅で仕事をする申請を事前にやっていなかった。
行かなければ。
うーんと伸びをし、天井に向かって手を伸ばしながら立ち上がると、体全体が目覚める感覚が遅れてきた。
少し前、残業で終電を逃して泊めて貰った朝、パンツ一丁で大きく伸びをしていた猫柄遍理くん。その青灰色の毛並みに覆われた長身を思い出す。
彼はわたしに輪をかけて雨が苦手のようで、だいたい空の天気と同じようなコンディションになっている。きっと今日もそうに違いない。
要領の良い他の大勢は家から仕事をするだろうから、オフィスはいつもよりずっとヒトが少ない筈だ。
取り立てて急ぎの案件がある訳ではない。だから調子悪い同士ふたり、のんびり仕事を進めることにしよう。
そんなことを考えながら身支度を整え、部屋から出て階下に下りる。朝ごはん用にコンビニで買ってあった菓子パンを食べながら身支度を調えていたとき、バターン! と勢い良くドアが開く音が聞こえた。
冷えて湿り気を帯びた外気が流れ込むのと一緒に、雨音がハッキリと聞こえる。
思っていたよりも大降りのようだ。
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