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次の日、朝起きてあちしは村の絨毯工房に行った。
あちしは工房で羊毛の絨毯を織る仕事で給料をもらってる。
工房は女達の職場だ。
「デボラさん、相談があるんです」
あちしは工房の女親方に声をかけた。デボラさんは絨毯を織って40年の大ベテランだ。
「何だい? マリアンヌ」
「あちし、子どもができたの」
「え!? 何だって? どこの男の子どもなんだい?」
「神」
「え? カミュって野郎かい?」
「いや、神だってば。あちし、神の子を身籠ったの。処女懐妊ってやつ」
「えー!? 本当かい? そりゃ、何というか祝福あれとでも言えばいいのかい?」
「それでね、今の給料じゃお産をするのも苦しいの。ちょっとでいいから給料上げてもらえないかな、と思って」
「あぁ、上げてやりたいのはやまやまなんだが、この工房もかつかつでね。難しいよ、マリアンヌ」
「やっぱ無理か……」
「神の子ってんなら、教会に相談してみたらどうだい? 支援してくれるかもしれないよ」
「わかった。あちし、教会に行ってみる」
あちしは仕事終わりに教会に行って、神父さまに会ってもらった。
神父さまは村の人たちから敬われてはいるが、傲慢な性格の40代くらいの男性だ。
「神父さま、あちし、神の子が出来ちゃった」
「馬鹿! マリアンヌ、神様を冒涜するんじゃない」
「本当だってば、信じてよ」
「馬鹿! 信じられるか、そんなもの」
「馬鹿って言わないでよ。あちし、子どもできたから育てるためにお金がいるの。教会で支援してよ」
「マリアンヌ、お金がない人すべてに施しを与えるほど教会に余裕はない。お前だけを特別扱いすることは出来ない」
「あぁ、教会もダメなんて、あちし、どうすればいいの? 神のご加護とか言ってもあちしには育てられないじゃん。助けてよ、ガブリエル……」
「馬鹿! マリアンヌ、みだりに天使の名前を呼ぶんじゃない!」
と神父さまが怒った瞬間、神父さまの背後に光が現れた。
「呼びましたか? 聖母様」
ガブリエルが神父さまの背後に立ってた。神父さまは、はっと振り返る。
頭に輪っかをつけた異形の存在に神父さまは驚きを隠せないようだ。
「は? は? 天使様? 本物?」
「モノホンです」
「ガブリエルー、神父さまはあちしが神の子を宿したって信じてくれないの。あちし、お金がなくて、子どもを育てられないよ」
「そうですか、これ、そこの阿呆な子羊よ、聖母様の御言葉は本当です。教会からお金を出してあげなさい」
「し、しかし、証拠もないのに、そんなこと出来ませんよ」
「なるほど、それもそうですね。じゃ、これでどうです?」
ガブリエルはスマホを取り出すと、LIMEを見せる。
そこには、"ワシ、神。子ども、認知する。"と書かれていた。
「は、ははー!」
神父さまは膝をついてガブリエルを拝んだ。
あちしは、そんなんで信じるなんてばっかじゃないの? って思ったけど口に出さないでおいた。
「愚かな子羊よ、聖母様が困らないよう、村人全体で聖母様を助けるように村長に働きかけなさい」
「ははー! わたくし、天使様より使命を賜りまして恐悦至極に存じます」
神父さまは土下座のように頭を床に伏せた。
時代劇の家臣みたい。普段厳しい神父さまが低頭するなんて滑稽だな、と思ったけどこれも言わないでおいた。
「あと、聖母様には敬語で接するように。失礼な態度をとった場合は、私があなたを地獄の業火で焼き尽くしますよ」
「ひ、ひー。承知つかまりました」
「では、私はこれで。聖母様、またお会いしましょう」
ガブリエルはそう言うと光に包まれて去っていった。
「神父さま、支援してくれる?」
「勿論です、聖母様。私めになんなりとお申し付けくださいませ!」
この変わり様ってどうなの? ま、いっか。
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