受胎告知 〜転生したら聖母でした。え? 生まれてくる子どもも転生者? って元キモオタはチェンジで!〜

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「おめでとう、恵まれた方。あなたは神の子を宿す聖母に選ばれました」  あちしの前に立つ天使が、微笑んでいた。  ──あちしの名はマリアンヌ。今は中世の西洋風の世界に生きているが、前世は日本の女子高生だった。  あちしが日本にいた頃、あちしは横断歩道でトラックにはねられて、あちしは16歳の短い生涯を閉じた。  と思ったら、この世界に生まれてた。  生まれた瞬間からあちしの精神は16歳の女の子で、赤ん坊だから身体はうまく動かせなかったけど、自分がこの世界に転生して来たんだってことは理解した。  灰色の髪に褐色の肌をもつ父親と、金髪に雪のような肌の母親との間に生まれたあちしは、銀髪で褐色の肌の少女に育った。  前世でも小麦色の肌に憧れてたから、生まれながらに褐色の肌とかめっちゃ感謝してる。  そしてここはあちしの生まれた村。  視界一面に広がるのは、紺碧の空に黄金の小麦畑と緑の牧草地、そこに点在する三角屋根の家々。  あちしはこの村で14歳まで両親と3人で暮らしてた。  あちし達は貧しい農民だったけど、パァパもマァマもあちしを愛してくれて仲睦まじい家族だった。  でも、パァパとマァマはあちしが14歳のとき、隣町へ買い物に行った帰りに、盗賊に馬車を襲われて亡くなった。  あちしだけは馬車の下に隠れて生き延びたけど、それ以来、あちしは一人で暮らしている。  あれからもう2年。あちしは16歳の誕生日を迎えた。  その誕生日の真夜中にいきなり部屋に天使が舞い降りた。  比喩じゃなくて、マジの天使。  あちしがベッドで寝てたら、いきなり部屋に明るい光が現れ、光が止んだと思ったら、部屋には、白いワンピースを着て、頭には黄金の輪っかを付けて、背中に羽をはやした中性的な若い男子が立ってた。 「ちょ、ちょっと、あんた誰よ? いきなり部屋に入って来てんじゃねぇですよ」 「おめでとう、恵まれた方。あなたは神の子を宿す聖母に選ばれました」 「は?」 「私は神の使いです」 「は?」 「天使です」 「はぁ。確かに見た感じそれっぽいけど。何しに来たのよ?」 「あなたの受胎告知に来ました」 「は?」 「あなたに赤ちゃんができます。神の子です」 「はぁ? あちし、処女なんだけど?」 「貴女は聖母になられるのです」  いきなり天使が現れたと思ったら、あちしは旦那不在のまま妊娠させられることになったらしい。 「いやいや、ちょっと待って! 神の子って何よ!」 「神の教えを広める宿命にある子です」 「見たこともない神って奴の子どもを産めっての? どんなハラスメントだよ!」 「あ、でしたら神の写真見ます?」 「え? 写真あんの?」 「はい。ちょっとお待ちを」  そう言うと天使はワンピースのポケットから何かを取り出す。見たことのある形状だ。 「スマホじゃん、それ! 何で天使がスマホ持ってんの?」 「スマホは天界にも必要不可欠ですから。あ、ほら、これが神様の写真です」  天使はスマホから男性の写真を表示させてあちしに見せる。 「どうです? 唯一無二の存在でしょ?」 「ふぅん。まあまあイケメンじゃん。長髪に髭でどっかの宗教の教祖に似てるけど」 「貴女にはこの神様の子が宿ります」 「え、じゃあ、この神様に似た子が生まれるわけ?」 「あー、それは、ちょっと違います」 「は?」 「神の子ではあるんですが、神は人ではないので、貴女と同じような転生者を選んで産んでいただくことになります」 「え? 子どもは、元はあちしと同じ世界の人間ってこと?」 「そうです」 「待って、あちしがこの世界に生まれたとき、意識は大人だったんだけど、あちしの子も大人の意識を持ってるってこと?」 「まあ、そうなりますね」 「ちょ、どこの馬の骨かもわからない奴の世話をしなきゃならないの? やりたくねぇよ!」 「あ、でしたら、転生者の写真見ます?」 「え、あんの?」 「はい。あなたの子どもになる方は元はこんな方です」  天使はスマホをあちしに見せる。  映っていたのはメタボで冴えない中年男性だった。 「おいー! キモオタじゃん、こいつ! こんな奴に授乳なんかできっかよ! 何プレイだよ!」 「え、でも心は清らかな方ですよ?」 「チェンジ! チェンジで! こんなおっさん、絶対愛せんわ!」 「そう言われましても神の采配なんで」 「じゃあ、あちし、育児放棄する」 「な、なんと、罪深いことを!」 「そもそも勝手に妊娠させられてるんだから、育てる義理ねーっつうの」 「オーマイゴッド!」  って天使が言ったら、天使のスマホがプププって鳴りはじめた。 「あ、神様からだ」 「え?」  天使が電話をとる。 「はい、ガブリエルです。え? 育児放棄は困るから、転生者を変えてもいい?  わかりました、そう伝えます」  天使は電話を切ると、あちしに「チェンジOKでーす」と親指を立てて、グッドポーズで伝えた。 「OKって言われてもね。ねぇ、転生者の候補者の写真って他にないの?」 「ありますよ。ほら、これが一覧です」  天使はスマホから写真の一覧を出した。 「キモオタ、キモオタ、キモオタ。キモオタばっかじゃん! どんな基準で選んでんだよ!」 「神の子には、心も体も清らかでないといけません。貞操を守っていることが条件となります」 「童貞ってことかよ! お乳与えるあちしの身にもなってくれよ!」 「そう言われましても、冴えない男性が転生したらハーレムになりましたっていう展開が、神様はお好きですので」 「あちし、堕胎する!」 「オーマイゴッド!」  するとまた、プププっと電話が鳴る。 「はい、ガブリエルです。え? 堕胎は困るから童貞じゃないイケメンに変えてもいい? わかりました」  天使は電話を切ると「イケメン、指名OKでーす」とグッドポーズで言った。 「いや待ってよ。そもそも男子じゃなくてよくない? エロい目で見られるの嫌だし。女子にしてよ。清楚系の可愛い女の子を指名します! じゃなきゃ、産みません」 「うーん。女子ですか、神の子といえば男児と決まっているんですが」 「スマホ持ってるくらいなんだからジェンダー平等くらい意識してよね」  すると今度は天使のスマホにピンッて通知音が鳴った。 「あ、神様からLIMEだ。女子OKだそうです!」  LIMEもあるんかい。 「こちらが女子の候補者の一覧になります。ちなみにみんな処女です」 「いや、それは別にいいんだけど……」  あちしは、天使のスマホの写真を見ていく。 「あ! この子がいい! 黒髪清楚系美少女! あちし、この子を指名します!」 「ほほう、新海里穂(しんかいりほ)さん16歳ですか。いいですね。性格も申し分ありません。わかりました。ではそのように手配します」 「でも、あちし、一人で娘育てるとかできるかな?」 「大丈夫、神のご加護がついていますよ。何か困りごとがあれば私をお呼び下さい。ではまたお会いしましょう」  そう言うとガブリエルは光を放って消えていった。  なんだかんだで、あちしは聖母になるらしい。
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