おもちゃの おかねで こまったぞ!

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 ※ ※ ※  平日の窮屈な生活リズムから解放された金曜日の夜。茜はリビングでRPGゲームの攻略に勤しんでいた。  マップの読み込み中、一時的に静かになったゲーム機。空いた茜の耳に、台所から両親の不穏なやりとりが聞こえてくる。 「……ただの後輩だって言ってんだろ。仕事のことで相談があるんだってさ」 「あんた、本気でそれ信じてるの? 相手は25の女なんでしょ?」  あー、また始まった。  方向キーを長押ししながら、茜は頭の片隅でシニカルに呟く。    茜の両親は、日本中を探しても珍しいレベルの仲良し夫婦だ。交際中に買ったというお揃いのコーヒーカップを未だに二人とも使用し、外出時には同じアクセサリーを身につけたりもする。  その一方で。  喧嘩するほど仲が良いという格言通りに、二人の間には口論も絶えなかった。喧嘩の内容は家事の分担、些細な価値観の違いなど多岐に渡ったが、中でもヒートアップするのは、夫のそばに女性の影が見える時だ。  茜の父はよくモテる。彼自身は妻を一途に愛しており浮気心を見せることは一切なかったが、それだけで平穏に済むほどパートナーシップというものは簡単ではない。  会社の同僚、学生時代の同級生、ジムで顔見知りとなった既婚者……。様々な場所で女性に言い寄られる茜の父。絵に描いたようなお人好しで自分に向けられた好意をきっぱりと拒絶できない彼の性格は、たびたび妻を苛立たせた。  もっとも、そうした大人同士の込み入った事情については、小学一年生である茜にはよくわからなかったし、さして関心もなかった。  それよりも茜にとって喫緊の課題だったのは—— 「こら! 茜! いつまでゲームしてるの! 早く寝なさい!」  母が機嫌を損ねると、ゲームの時間が短くなることだ。 「金曜なんだから、もうちょっと起きててもいいじゃん!」  ちょうどボス戦に挑んでいるところだった。興奮の絶頂にある今、プレイを中断させられるわけにはいかない。  そう思って反抗したもの虚しく、 「子供は寝て育つのよ。はい、歯磨き歯磨き!」  半ば強制的に電源をオフにさせられ、茜はしぶしぶ洗面所へと向かった。
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