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※ ※ ※
野菜、缶詰、牛乳……。
さりげなく、いつもよりワングレード下の食材を母に選ばせつつ店内を一周して。
最後に茜がたどり着いた先は、彼女にとって最も重要なステージ、すなわち菓子コーナーであった。
「茜、今日のおやつはなにがいい?」
「だ、大丈夫。今日は、おやついらない!」
きっぱりと告げた茜の口内ではしかし、よだれが氾濫していた。
——クッキーにポップコーン、チップス。
どこに目をやっても、茜の大好物が手招きしている。
本音を言えば、陳列されている商品の全てをたいらげたい気分だった。
それでも、今だけは我慢しなければならない。
「あら、珍しいわね」
そう言ってあっさりと菓子コーナーを去ろうとする母の顔を直視できない。「ほんとうに買わなくていいの?」と訊いてくれるのを心のどこかで期待している自分がいた。もっとも、カゴに入れたところで所持金が足りなければ無意味なのだが。
鮮やかなパッケージ達に涙ながら背中を向け、母の半歩後ろを歩いてレジへと向かう。
それにしても、と茜は考えた。
お菓子って高いんだな。お豆腐はどんなに高くても100円ちょっとで買えるのに、お菓子は1日でなくなりそうな分量のものが300円もする。
おもちゃのコインをレジで取り扱ってくれていたらいいのにと、切に願わざるを得ないのであった。
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