おもちゃの おかねで こまったぞ!

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 ※ ※ ※  「ちょっと足りないものを買いに来ただけ」と口にしていた割に、結局レジに並ぶ頃には、母のカゴの中には少なからぬ食材や調味料が入っていた。  行列がみるみるうちに短くなり、とうとう茜たちの会計が始まる。 「お待たせしました。どうぞ」  大学生風の青年が、カゴの中の商品を手際よくバーコードリーダーに通していく。    LEDの表示する金額が大きくなるにつれて、茜の心臓が騒がしく動き始めた。どうしよう、このままじゃ絶対足りないよ。    ——四ヶ月ほど前、幼稚園の卒園式。「しょうらいの ゆめは 『まほうしょうじょ』です!」と語ったクラスメートを、賢い茜は心の中で冷笑していた。魔法少女なんて現実にいるわけないじゃない、と。  しかし茜は今、恐らく日本全国の女児の中で誰よりも、魔法少女になりたかった。今すぐに母親のコインケースの中身を取り替えたかった。  だが、どれだけ願っても奇跡は起こらず、茜の手のひらに魔法のステッキが現れることはなかった。  茜の頭一つ分高い位置にあるディスプレイが、容赦なく4桁の数字を表示する。 「お会計、1283円です」  だめだ、やっぱり言わなきゃ……。  ワインレッドのコインケースを開く母を黙って見ていることは、もうできなかった。 「ママ! 待って! ごめん、わたし——」  こみ上げる涙を無理矢理押し留めながら、母の脇腹を両手で叩く。  母は動きを止めることなく、「なあに?」と訊ねながらコインケースに手を入れ、そして引いた。  彼女が指で挟んでいたのは、四つ折りにされた1000円札と。  銀色の、つまりおもちゃではない、日本銀行が発行した500円玉だった。
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