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ボタッとやけに重たい音がして外を見ると、コンクリートのテラスにいつもより大きめの雨染みが出来ていた。
それはまた、ボタッボタッと少しずつ増えていく。
「ゆうくん!何か大きな雨が降ってきたよ!」
「なあに?」
車のおもちゃを綺麗に並べていた息子が手を止めて、私の元に来る。
「ほら、いつもより雨の跡が大きい」
雨といえばもっと軽い音と共に降り始めてあっという間に地面を濡らしていくのに、今日の雨はやけに重たく進行がゆっくりだった。未だに大きな点がいくつかあるだけで、中々強くならない。
「初めて見た。面白いね」
きっと分からないだろうと思いつつも、大分お喋りが上手になってきた息子が何と言うだろうかと思って声をかけてみた。
案の定、息子はポカンとした表情でテラスを見ている。当たり前かと立ちあがろうとした時だった。
「何か、においする」
息子がぽつりと呟く。
私も鼻を吸ってみると、子どもの頃から嗅いだ事のあるあの匂いがした。
「ゆうくんよく気付いたね。雨の降り始めはね、こんなにおいがするのよ」
「何で?」
「え」
最近やたら何で?と聞かれる様になった。
いつも不意打ちにこられて焦るが、子どもの素朴な疑問は時にハッとさせられるものがある。
確かにどうしてだろう。何となくは知っている様な気がするけど、はっきりとは説明出来ない。
「…どうして、だろうね。後で調べてみる」
「うん」
余程興味がある時は、今すぐにでも調べろとせかしてくるが、やはりあまり興味がないらしい。
でも一応その場から動かずに、息子は少しずつ増えていく雨の点を見つめていた。
私はその横顔を見ながら大きくなったな、と実感していた。雨の匂いに気付くなんて。
私が今まで感じてきた事をこの子も同じ様に感じ取れる様になったのかと思うと、何だか感慨深い。
この子にとって4回目の梅雨がやってきた。
毎年、こうやって新しい発見が増えていくのだろうか。
「ゆうくんが産まれた時もね、雨が降っていたんだよ」
「ママー」
「ん?」
「おやつ食べよっか」
「…はーい」
勝手にノスタルジックになっていた親の事なんてお構いなし。いつものマイペースで息子はスタスタと台所の方へと向かう。
その小さな背中に微笑みつつ、段々雨音が激しくなってきたので私は窓を閉めた。
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