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今日の空はグレイだ。
コーヒーをカップに注ぎながら、拓海(タクミ)は深く溜息をつく。
今日こそは、悠真(ユウマ)に別れを告げると決めた。
「もう、身代わりになるのは嫌だ」
最初から分かっていた身体だけの関係。
それでも抱かれる度に強くなる悠真への想いに、拓海の心は押し潰されそうだった。
悠真には愛する人がいた。
けれど、その彼には家庭があったし、何よりゲイでは無い。
その身代わりとして、拓海は悠真と身体の関係を持っていた。
ベッドで悠真は、別の男の名前を呼ぶ。
それも最初から決まっていたことで、はじめは、なんてこと無かった。
けれど、三回目に寝た後で、急に涙が溢れ出した。
ただの生理現象。汗みたいなもの。
「気にしないで」と拓海は言い訳をした。
「ほら、水蒸気が溜まってさ、堪えきれなくなって、雨になるだろ?そう言う感じ」
「そういう感じってなんだよ」
悠真は、不満気に眉を潜めた。
「ごめん、説明が、下手で…」
拓海はしどろもどろになる。
「それって、何かが溜まって涙になったってこと?」
「そう、なのかな…」
自分で自分の気持ちを持て余す。
よく分からないけれど、多分自分は傷ついていたんだと思う。
__
真昼間から、悠真の部屋でセックスして、その後、別れたいと言って外に出た。
やっぱり降って来たか、と空を見上げる。
けれど、ちょうどよく傘は無かった。
濡れて帰ろう。ちょうど泣けるから。
そう決めて歩きだした。
それなのに。
不意に後ろから優しさを差し掛けられた。
「悠真、そういうの、やめろよな」
振り返らずに拓海は言った。
「ごめん、悪かった。俺さ、」
気がつくと悠真の腕の中だった。
「もう、身代わりなんかじゃない。拓海じゃないとダメになってた」
「ばか…」
雨に打たれながら、二人でキスを交わす。
通り過ぎる車と雨音にかき消される悠真の「好きだ」って言葉。
でもまあいい。これから何度でも言わせるから。
晴れたら何処かに出掛けよう。
今度は恋人同士で_
_fin
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