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ぼうっと抱きしめられていると、雨音が耳につく。雨、降ってたんだっけ。思い出した途端に頭が鈍い痛みを主張する。
尋常じゃない痛さに思わず呻くと、キュッと1度腕に強く力を入れたあと、宥めるように頭を撫でられる。それだけで少し痛みが収まった気がした。
「チカ。俺は、周りがなんて言おうとチカのそばにいるよ。絶対に離れたりしない。チカに優しくてかっこいいって言われるのは嬉しいけど、他の誰が言ったって別にどうでもいい」
そのままゆっくりと髪を梳くように手を動かしながら言葉が落とされる。
「それに、俺は別に優しくないよ。チカに嫌な思いをさせたくないとは思っているけど、でも俺の傍を誰かに譲るなんて言うなら、俺はチカに嫌な思いさせてでもそばにいたい。……ね。ヤな奴でしょ?」
小さな声で、僕の気持ちに答えてくれる。なんで、そんなに。僕のこと。聞こうとした言葉は言えなかった。
「それに。千影はとっても可愛いよ。俺の方が千影には釣り合わない」
「好きだよ。千影が。ずっと好きだった」
耳元で囁かれた言葉が。その優しく甘い響きが。とてもじゃないけれど信じられなかったから。
「俺が千影に傍にいて欲しいって思ってるんだから、ふんぞり返って隣にいなよ。周りの声なんて気にしないで。俺を置いて、どこかに行こうとしないで?」
好きな人からここまで言われて耐えられる人っているのかな?僕には無理。
釣り合わないとか、そもそも男同士だとか、色々悩んでいたのが全部飛んでいく。
うん、うんって頷きながら必死に涙を堪えていると、頭を撫でられて、背中を撫でられて、ぎゅーぎゅーときつく抱きしめられる。
「俺の前では泣けない?」って言われてもうダメだった。
涙がポロポロと零れて、しゃくり上げる。鼻水も出る。ああ可愛くない泣き方だなと思ったけれど、涼夜が嬉しそうだから別にいい。
しばらくして僕が泣き止むと、「体調は」と聞かれる。
外に目を向ければ、雨は相変わらず。むしろさっきより強くなっている気がした。でも、そういえば、さっきから頭痛があまりしない。教室では座っていてもグラグラするほど酷かった目眩もおさまっていた。
「ちょっと頭が痛いだけ。そういえば、さっき撫でてくれたときも、ちょっと良くなったよ?」
嬉しくなって涼夜にそう言えば、少し目を見張ったあと、「そっか、良かったな」と喜んでくれた。
「じゃ……帰るか」
「ん!」
傘を広げながら外に出ようとすると、突然傘を奪われて空いた手を繋がれる。
「え、何!?」
「傘忘れたから、いれて?」
「いいけど……」
え、今朝持ってなかったっけ?思ったけど聞かない。なんだかすごい笑顔だから。レアだ。
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