雨の日の幸せ

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 ぽつ。ぽつ、ぽつぽつ。  雨が降ってきた。授業中の静かな教室の中では、存外その音は響いた。雲が動いて途端に周りが薄暗くなる。先生が電気をつけた。パッと照らしだした明かりに瞑っていた目を瞬く。  朝から何だか頭が痛いとは思っていたけれど、そうか、雨のせいか。  雨は、きらいだ。  雨の中のしんとした静けさや地面から立ち上る土の匂いはむしろ好きだけれど、頭は痛いし、ひどい時は目眩とか吐き気もするから、やっぱりきらい。  ほら。もう頭痛が酷くなってきた。 今日はいつもよりも酷いかもしれない。座っていても少し目眩がする。気持ち悪い。  先生の解説もクラスメイトのひっそりとしたざわめきも、どこか遠くの出来事に聞こえる。  意識の上に薄い膜が張っているようにぼんやりとした、そんな感覚。肌の上をざわざわと何かが蠢いている気がして、ぎゅっと身体を抱きしめる。  きもちわるい。 + + +  やっと授業が終わった。雨はまだ降っている。  この半時間ほどで気分は底辺にまで落っこちた。何もしたくない。怠い。 「チーカ。」  べたーっと机にへばりついていると、声をかけられた。 「……すずや。」 「ん?どしたの。帰らないの」 「うー…帰る……」  そう。もう放課後。帰れる、んだけれど。 動きたくない。というか立てるのかなこれ。  涼夜にはこのことを言っていない。多分ものすごく心配してくれるから。過保護がこれ以上ランクアップしたら、申し訳なくてたまらない。  まだ用事がー、とか、先生に呼ばれててー、とか、なんとか涼夜を先に帰そうとうだうだしていると、突然椅子を後ろに引かれた。次の瞬間、ふわっとした浮遊感がしたと思うと、唖然としたクラスメイト達の顔が見える。  ……え。 「え。……っえ?」  抱っこ、されてる。 「や、え!?」 「混乱しすぎだよ、チカ」  あはは、と小さく笑いながら涼夜は教室を出る。珍しいその笑みに、廊下にいた生徒たちが目を見開いている。そのあとに、嫉妬の視線がこちらに向けられる。あ、やばい。 「涼夜、降ろして!」 「なんで」 「自分で歩けるから!」 「や。歩けないでしょ。」 「…は。」 「チカちゃんはまだちっちゃい赤ちゃんだもんね?」 「はぁ?!小さくない!」  一瞬。バレたのかと思って焦った。小さく息をつく。良かった。馬鹿にはされたけど。僕は小さくない。涼夜が大きいだけだ。  ……少しだけでいいから、身長分けてくれないかな、切実に。
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