雨上がりの空の下で笑えば。

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風呂に入れて上げた後、驚きの声を上げた。 真っ黒な、まるで汚れきったモップかと思っていたそれは、透き通るように綺麗な銀色であった。 幾分かの水滴がついた毛色が部屋の光に照らされて、より神秘的に思わせる。 その幻想的な光景に呆気に取られていると、その獣は片目をうっすらと開けた。 瞼に隠されていた月を閉じ込めたかのような金の瞳に見惚れていると、盛大な音が鳴った。 それは、自身の腹かと思っていたが、目の前にいる獣からだった。 「……お前、腹が減っているのか?」 よたりと、足を震わせながら立ち上がり、床に着いていた手に小さな舌をぺろぺろと弱々しく舐めた。 綺麗な瞳を傷つけられ、さらに本当の毛色が汚れてしまうほどだ。きっとこちらが保護するまでに相当酷いことがあったのだろう。 かつての自分のようだ。 "その時"のことが脳裏に浮かび、だが、振り払うように頭を振ると、「待ってろ。今用意してやる」とまだ舐めている獣にそう言い残し、先ほど冷蔵庫に入れた物を取りに行き、再び獣の前にあぐらをかくと、包装紙を取り、中身を差し出す。 あげようとした物、それは、コンビニでよく売られている鮭のおにぎりだった。 「犬に人間が食う物を食わせちゃいけないと言うが、生憎、これしかないんだ」 警戒しているらしい、黒い鼻をひくひくとさせていたものの、おずおずとかじる。 もぐもぐとさせていたが、急にぴたりと止まる。 やはり、食べれない物だったか。 残りは自分が食べようと手を引っ込めようとしたその時、両前足を乗せ、ガツガツと食べ始めたのだ。 急な勢いにあっけらかんとしていたが、長くてふさふさとしたしっぽをちぎれそうな勢いで振っているのを見て、口元を緩ませた。 「そんなに美味かったか」 あっという間に平らげ、もっと寄こせと言わんばかりにしっぽを振りながら一鳴きしてくる獣に、もう一個あげてやると、食べ始める。 「……俺は毎日食っていて、食い飽きていたから、あげて良かった」 口の周りの毛にご飯粒がついているのを気にせず食べ続ける獣の頭を、不意に手を置こうとしたが、思いとどまった。
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