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いつも通り始業開始の五分前に出勤すると、水野さんが向かいのデスクから立ち上がってすっ飛んできた。
「如月さんっ、昨日はありがとうございましたっ」
昨日の帰りしな、水野さんの作成した発注書のミスを、私が偶然発見したのだ。水野さんは営業先から直帰予定となっていたため、私が発注先に連絡をとり、上司判断のもと数量変更を依頼しておいたのだった。
「如月さんが気づいてくださらなかったら、大変なことになってました。ほんとにすみません、ありがとうございました」
「ううん、間に合ってよかったよ。今後は気をつけてね」
はいっ、と元気よく返事をし、ぱっと輝くような笑顔を見せる。
数ヶ月前に部署異動してきた水野さんは、小型犬を彷彿とさせるタイプだ。部署内で可愛がられており、営業成績もそこそこで、期待の新人といったところ。
とても気さくで、私のような歳の離れた相手にも、人懐こく話しかけてくれることが多い。この日の昼にも、デスクで昼食をとっていた私の後ろを通る間際、「あっ」と朗らかな声をあげて立ち止まった。
「それ、どうしたんですか? 可愛い」
「ん……、ああ、これ?」
デスクに何気なく置いていた、クマのキャラクターのマスコットだった。コンビニで買ったペットボトル飲料のおまけだ。水野さんはふふふと声を漏らすようにして笑う。
「如月さんって、こういうイメージなかったから。ちょっと意外です」
服や持ち物はモノトーンばかりで、キャラクター雑貨なんてまず持たない。そんな私のデスクに可愛らしいクマが座っていたものだから、目に留まったのだろう。そんな些細なことに気づいて気軽に話しかけてくるのが、とても水野さんらしいといえた。
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