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水無月 夏の雲
窓の外へ目を遣ると、青空をゆっくりと雲が流れていた。くっきりと存在を主張する雲が、目の前に佇んでいる。
私は、春空に浮かぶ薄い雲も、秋に現れる鱗雲も、冬の空を覆う雲も、どれも好きだ。だが、質量のありそうなこんもりとした夏の雲が、いっとう好きだった。
窓を開けると、風に乗って草の匂いがしてきた。蕭々と葉が揺れ、そのたびに明るい緑が目を焦がす。
そんな景色に入り込んだのも久しぶりな気がした。というのも、連日曇りか雨だったからだ。ただ、私は雨の匂いも好きだった。ぺトリコールというらしい。石やら草やら水やら、色んな匂いを抱き込んだ空気が立ちのぼると、つい肺腑いっぱいに溜めたくなる。
とはいえ、六月には貴重ともいえる晴れを、今はじっくりと堪能したい。
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