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家族
「私がアイスなんか欲しがったからだよね?」
十五年も前の、何も憶えていないことで姉に憎まれ仕返しをされた妹。
「別にあんたは悪くないでしょ。まだ赤ん坊だったんだから」
「智美、ごめんなさい」
父も母も廊下に出てきた。
「お店はすぐそこだったし、あなたが戻ってくるまできっとチロも頑張ってくれるって思って。でもそんなのお母さんの都合よね。小さな頃から兄妹みたいだったチロを一番看取ってあげたかったのはあなただったのに。本当に、ごめんなさい」
「やめてよもう!」
あの頃の母さんは、英美里と私の世話、チロの看病と家事と近所づきあいを毎日こなしていた。
「あんなに大変だった母さんに許すなんて偉そうなこと言えないよ。でも、でもさ? なんで肝心なとこ間違っちゃうの? 間違ったのがチロのことじゃなきゃ私」
「智美」
「ずるいよ……これじゃ私が悪者みたいじゃん!」
わんわん泣いたの何年ぶりだろう。
父と人づきあいの苦手な母が心を削って築いたこの町の「居場所」を、私は一瞬で壊したのだ。
目を拭いながら母が洗面所に向かい、英美里もそれについていった。
なんと、私の背中をさする役目を引き受けたのはあの厳格な父だった。
「父さんさ、あの日どう言って早退したの?」
「ん?」
飼い犬のことを理解してくれる会社なんて、探す方が難しい。
「世話になった叔父が危篤だと言ってな。そうしたら」
どこに住んでいて、何をしていた人で、名前は何て言うんだとか、挨拶するから番号を教えろだとか、それこそ父は、クビを覚悟で帰ってきたのだそうだ。
「私もイライラしていてな。あの時、そう見えただけで勝手に決めつけてしまって、お前には本当に申し訳ないことをした」
頭を下げてくる父。
驚いた私はどうしていいか分からず、その頭を撫でることしか思いつかなかった。
ずるい。
みんなずるいよ。
「智美、いい?」
バスタオルを持ってきた母が私の髪を拭く。
「お姉ちゃんこれ。洗おうと思ってたやつでごめんね」
そう言って、英美里が自分の毛布をかけてくれた時、
私はハッとした。
「やっぱ呼んでくる!」
大急ぎで戸を開けた。
「すみません!」
車は既に無かった。
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