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家族とペットが乗れる大きな車。
それと同じ車種が隠れられるようなところはこの辺りに無い。
「どうしたの?」
「帰っちゃったみたい‥‥‥」
ちゃんとお礼がしたかったのに。
「さんざん家のこと話しちゃったから、怖がられたのかもしれない」
「違うよ」
遠慮がちにしか話さなかった英美里の、きっぱりとした口調がとても意外だった。
「その人達は、たぶんお姉ちゃんが私達と話せるようにしてくれたんだよ」
「そうね。だから、泊まらざるを得ないようにしてくれたんじゃない?」
玄関に腰を下ろした母が、そう言って父を見た。
父が気まずそうに頭をかいている。
「お父さんってこんなでしょう? いつも偉そうで頭ごなしにもの言って。
憶えてないかな、まだ英美里が生まれる前、お母さん、よくあなたを連れて実家に帰ったんだけど」
うん。憶えてる。
私とつないだ手をぶんぶんと振り回し、まるで遊園地にでも行きそうな、晴れ晴れとした顔であの道を歩いていた母。
そういう時の行き先は、決まって母方の祖父母のところだった。
「お母さんぼぉっとしてたから、いつだってお父さんとお母さんに丸め込まれちゃってね」
そうだったね。
『さあ智美、今から一回だけパパのところに行くわよ』
『ほんとに?』
『そう! これからママのお家で暮らすんだもの、智美の大切なおもちゃやママのお荷物、持ってこなくちゃいけないでしょう? チロもジィジバァバが車で連れて帰ってくれるって』
で、私達がこの家の玄関に入った途端、いつも去っていった祖父母の車。
『もう何も信じられない』
『あの二人、娘が可愛くないのかしら……』
しばらくの間、台所で、お風呂で、テレビを見ている時までそう泣きながら呟く母に、こそこそと部屋を出ていった父を見た気がする。
「あの時とおんなじ!」
「へぇ~そんなことあったんだ」
「もう勘弁してくれよ」
妻と次女に閉口する父さんて。
吹き出しかけ、すぐに顔を引きしめた。
謝るなら今しかない。
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